4. 翔子とカスタマーサポート

 で、最後がやっと目的の項目。


『カスタマーサポートに連絡する』


「えーっと……『クローゼットの底にある引き出しに手紙を入れて閉じてください』だって。どういうこと?」


「えーっと、転送で引き出しの中身を特定の場所に送るみたい」


 なん……だと……

 転送ってことは一瞬でってことだよね?


「完全にオーバーテクノロジーです」


「本当にありがとうございました」


「まあ、チョコの時点で既にそうなんだけどね」


「うん。私がこうやって動いてるんだし、その転送も動作するんだろうね」


 ただ、連絡する方法は書いてあっても、連絡先は明記されてない。

 どこの誰に届くのかはさっぱりなのがイマイチ信用ならないんだけど……


「疑り深くても解決しないし連絡しよっか。うちの蔵に出入り口ができたので、つい触って起動しちゃいましたって感じでいいかな?」


「というようなことを丁寧にね」


「うん。あ、その前にもう一つの部屋も見とく?」


「見ときましょ。一つ怒られるのも二つ怒られるのも一緒だし」


 やはり私というか、好奇心には勝てない模様。

 こっちが魔導人形の部屋なら、あっちの部屋はどんなすごいものがっていう気になる。


 というわけで、向かいの部屋。蔵からの階段を降りて左手にある部屋だ。

 試しにチョコに取っ手を押してもらったら、同じように開いた。これって誰でも開けられるのかな?


「一応、所有者とその人が許可を出した人だけかな」


「え、そうなの? というか、私が所有者?」


「そういうことになってるみたい。なっちゃってるって言う方が正しいかもだけど」


 なんだろ。『最初に触った人が所有者です』ってわけでもないと思うんだけど。

 そんなことを考えながら進んだ先は、魔導人形の部屋と左右対象って感じの大きさ。

 壁にびっしりと本棚。部屋の奥には書架も並んでいて、ほぼほぼ本で埋め尽くされている。


「すっごい蔵書! 私の部屋より多いんだけど!」


「マンガやラノベとかと比べるのはどうかと。ゲームのパッケとかフィギュアとかもあるし」


「えー、これだってラノベかもしれないじゃん。読めないけど……」


 こちらにも豪華なテーブルと椅子のセットがあり、じっくりと本を読みましょうねって感じ。読めるものなら読みたいところだけど……


「あ、私なら読めるっぽい……」


「え?」


「うん、読める。魔導人形のデフォルト言語なんじゃないかな」


 あ、取説の言語もそのデフォルト言語だった可能性?

 それに魔導人形が、チョコが読めるなら、チョコが読んで私に記憶を送ってくれれば……


「翔子も読めるようになるかも?」


「だよね」


「私、ちょっと面白そうな本を探して読んでみるから、その間に手紙用意したら?」


「だね。じゃ、ちょっと筆記用具とか取ってくるよ」


「よろしく〜」


 同じことをしてる必要はないし、何なら別のことをしてた方が効率はいい。

 私はチョコに面白そうな本を見繕うようお願いし、家へと筆記用具を取りに戻った。


***


 筆記用具を持って戻り、さっそくお問い合わせの手紙を書くことに。

 チョコは本棚がまずどういう分類で整理されてるかが気になったみたいで、背表紙からそれを確認中。


「そういえば翔子、お昼食べなくていいの?」


「え? あ、忘れてた。というか、チョコもお腹空くの?」


「空くし、食べられるみたい。しかも出すみたい」


 そんなところまで凝らなくていいと思うんだけど。

 それに食費が倍になってしまうという無職には深刻な問題が。


「あ、起動してる間の話ね。要は意識をオンにしてると食べたり飲んだりしたくなるっぽいよ」


「なるほど。普通の人としての生活を心が欲する感じなのかな?」


「だと思う。多分、食べなくても平気なんだろうけど、空腹感で辛くなるんじゃないかな」


 実際に飢餓状態とかになったことはないけど、お腹が空きすぎると病みそうな気はするよね。

 うん、思い出したらお腹空いてきた。


「私、食べに家に戻るけどどうする? 食べる?」


「食べたいかな。ただ、私を、魔導人形をチョコにしちゃった問題が解決する前に、勝手に食べたりしちゃっていいのっていう……」


「あー、確かに。でもまあ、さっきと同じで二つ怒られるのも三つ怒られるのも一緒だし」


「ん、ありがと」


 じゃ、お昼にしましょうの前に、ごめんなさいの手紙を書き上げてしまう。


「よし、書けた。これ送ってお昼にしましょ」


「オッケー」


 魔導人形の部屋に戻り、クローゼットを開ける。

 底にある引き出しってこれかな? 入れて閉じれば良いらしいけど……


「送る手紙を入れて閉じると、取っ手についてる宝石が緑に光るらしいよ」


「それも魔導人形の持ってた知識?」


「ううん、取説のクローゼットの図解に小さく書いてあった」


 がっくり。見逃してたのね……

 まあ、もともとわかってる知識があったら、見る場所も違ってくるってことなのかな。

 前向きに捉えよう。


「翔子、行きまーす」


「発信どうぞ」


 しょうもない小ネタはともかく、手紙を入れた封筒を引き出しに入れて閉める。

 きっちりと閉まったところで、チョコの言っていた宝石が緑色に光り……数秒後に消えた。


「え? 今のであってるの?」


「うん、送信完了で消えるみたい」


 チョコが取説を片手に答えてくれる。

 ということは、開けたら手紙は消えてるはず?


「開けてみる?」


 その問いに頷いて開けてみると……


「なくなってる。送信成功、だよね?」


「多分。失敗してたら赤く光るって書いてあるし」


「じゃ、届いたはずなんだ。読んでくれる人がいればいいけど。あっ、着信はわかるの?」


「緑に点滅してると着信ありだって」


 良かった。届いてないか開けたり閉めたりとかバカっぽいなーって思ってたし。

 まあ、すぐに返事は来ないだろうし、お昼にしましょうか。


「オッケー。じゃ、お昼にしましょ。チョコ、何食べたい?」


「それ聞くことなの?」


「自問自答ってやつ?」


「なるほど!」


 チョコが「これ食べたい!」って言ってくれたら、それは私の食べたいものでもある。

 元が同じ私だけど、私とチョコが少しずつ別のことを考えている感覚は楽しい。

 小学校の頃に「なぜ勉強しないといけないか」をお父さんに聞いた時、「知ってることが多いほど、いろんな考え方ができる」という答えをもらった。

 チョコは今、私の知らない未知の言語を知っているし、あの書庫にある本を読めばもっと知識が増えていくんだろう。

 それがどう役に立つかはわからないけど「知らない私」では思いつかない考え方ができるはず。あの転送の引き出しの件がまさにそれだと思う。

 しばらくは、あそこにある本を読めるように頑張って見ましょ。

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