2. 翔子と魔導人形

「えーっと……本当に鉄砲隠し持ってたってオチ?」


 石段の先を覗くと、転がり落ちたコンテナとその中身が階段やその先に散乱してる。あれは拾ってこないと。

 転ばないように気をつけながら、ゆっくりと降りていくと降りたところは地下倉庫ではなく通路になっていた。さらに先に続いていて、進むとまた下り階段っぽい。

 天井は柔らかい光を放っていて明るい。蛍光灯が埋まってる風でもないし、それ以前に電気はどこから?

 壁も床もレンガのような石が敷き詰められているんだけど、左右に一つずつ不釣り合いな銀色の扉がある。 

 この扉を開けて、本当に雑賀衆の鉄砲が山積みだったらどうすれば? 売っちゃっていいって話にはならないよね。貴重な文化財とか言われて没収されそう……


 転がっていたコンテナにその中身を雑に詰め込む。

 コンテナは全部で四箱。中身詰め込んだこれを持って上がるの大変そうだなー。

 ……通路の先でも見てこようかな。


 二〇メートルほど歩いた先には、同じような石の階段が下へと続いていた。

 何も考えずにそのまま降りていくと、降り切ったところで正面に大きな扉で行き止まりに。

 うーん、鉄砲隠すならこっち?


 観音開きの扉のようで、中央にある取っ手二つをガッチリ握って押す……引く……動かない。

 鍵がかかっている感じではないけど開きそうにない。すごく重いか固い? ああ、地震で枠が歪んだせいで動かなくなってるとかはありそう。

 まあ、いいや。上の扉は開くかな。


 さて、どっちから開けるかな。とりあえず右手法でいいかな。

 蔵から降りてきて、せっかくだから右の扉を選ぶぜっていう。上から何も来ませんように。


 えーっと、これは引き戸?

 取っ手のような出っ張りがあるので、それに手をかけ……あれ? 扉が勝手に左側へとスライドして開く。

 これはタッチすると開くタイプの自動ドア? いやいや、だから電気はどこから?

 そんなことを考えていると今度は扉が自動で閉まる。まんまだ。

 いいや。とにかく中を見てみましょ。


 もう一度取っ手をタッチして扉が開いたのを確認、中へ足を踏み入れると天井が明るくなる。

 これもトイレの人感照明みたいで不思議だけど、もはや突っ込みどころが多すぎて驚かなくなってきた。

 少し進むと二〇畳ぐらいの広い部屋に出る。正面に見えるのは大きいクローゼット? 壁には大きな盾や剣、槍、短剣、戦棍。部屋の隅には金属鎧。高そうな机に椅子が二つ。


「なんで、どれもこれも西洋風……。雑賀も鉄砲も関係ないじゃん!」


 思わず叫んでしまった。

 ざっと眺めていくと、飾られている武器はどれもサビ一つ無い状態。もちろん鎧も。観賞用の美術品なのかな。これを売ればお金になるかも?

 で、クローゼットも金属製。装飾がなかったらただのロッカーか物置に見えなくもない。

 服とか入ってるのかな? 開けてみればわかるんだしと勢いよくクローゼットの扉を開く。


「ひっ!」


 びっくりしたー!!

 目の前に現れたのは……等身大の人形、マネキンにしてはポーズがなくて……なんだろ?

 その隣にはいくつも服が掛けられていて、こちらもどれも西洋風。西洋風っていうかファンタジー風? 魔法使いっぽいローブとか神官服みたいなのも。


「ん?」


 開いた右側の扉の裏に……これはカタログ? いや取扱説明書?

 手に取ってみたはいいものの、表紙からいきなり謎の言語でさっぱりわからない。日本語どころかアルファベットですらないし。

 何か図解でも載ってないかとパラパラとめくってみると……あ、日本語発見! あー、取説によくある同じ内容をいくつもの言語で書いてあって、それが纏まってるパターンだ。

 日本語版の表紙はと……


『デラックス魔導人形・白銀の乙女 取扱説明書』


 もう一度見直す。うん、どうやら私がおかしくなったわけじゃなくて、これを書いた人がおかしいんだと思う。

 気を取り直してページをめくる。


『はじめに(魔導人形とは?)』


 ちゃんと魔導人形とやらについての説明から始まってるようで一安心。

 読み進めていくと、誰の厨二病っていうようなことが書かれている。

 なんでも、この魔導人形とやらは利用者の意識体を登録することで、本人の分身として動作するものらしい。○ーマンのコピーロボット的な?

 さらに読み進める。


『魔導人形の各部紹介』


 この章は付属品の紹介から始まって、各種パーツの解説やらなんやら。

 この辺は普通の取扱説明書っぽいんだけど、それにしても『乙女アイは超視力』『乙女イヤーは地獄耳』とかもうね。『乙女チョップはパンチ力』『乙女キックは破壊力』なの?


『魔導人形の初期設定』


 まず意識体をインストールする必要があるらしい。

 最初におでこを合わせるだけ。それでしばらくするとセットアップモードになるらしい。

 あとは魔導人形が喋るので対話モードで設定しましょうとのこと。

 うん、これは設定書くのがめんどくさくなって省略したんだな。


『魔導人形の操作と基本機能』


 操作ってと思いきや……


「は? 魔法?」


 基本機能としてプリインストールされている魔法はすぐに使えるようになるとか書いてある。

 術式は指輪に保存されているとのことで見てみると、確かに右手の中指に指輪がある。


 使える魔法一覧が載っているが、それぞれ何となくわかるかなっていう名称。

 清浄や浄水なんかは生活魔法っぽいけど、火球とか氷槍とか雷撃とか攻撃魔法もあってなかなか物騒だなーって……そうじゃない。

 魔法って言ってるけど、おもちゃなんかで話しかけるとライトがついたりするやつ?


『魔導人形のタイプ変更と特徴』


 タイプ変更って何ぞって感じだけど、どうやらプリセットがあるっぽい?


『永遠』——最前線で敵の攻撃を受ける盾タイプです。付属の大盾を使用します。

『不可視』——隠密行動を行う斥候タイプです。付属の指輪を使用します。

『異端』——魔法を使う万能タイプです。付属の長杖ロッドを使用します。

『天空』——飛行して戦う遊撃タイプです。付属の槍を使用します。

『慈愛』——治癒や加護を行う回復タイプです。付属の戦棍を使用します。


 いかにも厨二なタイプ名。

 うん、ここまで徹底してると嫌いじゃないよ。むしろ好き。


 …

 ……

 ………ちょっと初期設定してみるかな?

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