(4)サンタクロースの願いごと〜その3〜

人間界に降り立ったサンタ5号と3号は、お互いを見て笑った。

5号は白い髭が黒くなっただけの小太りなおじさんで、服装は黒いロングコートにスーツだった。3号も白い髭は黒くなり、痩身の眼鏡をかけた若者になっていた。

「これって自分で外見選べるの?!」

5号が驚いて訊ねると、3号は頷いて笑いながらさてと、と言った。

妖怪のもっていた薬には念じた姿形に近づく魔力が宿っていた。

「ありすって子はどんな子でどこに住んでるんだ?」

そして2人は途方に暮れることになる。

何の考えも無しに来てしまった上に、100年前のこどもの居場所など到底分かるわけがなかった。

3号はそれで、暗い顔をした黒髭の5号を楽しませようと、噴水を指さした。

「なあ、これ、水だよな」

それで5号はぱっと明るい顔になって、

「不思議だねえ3号くん!水が逆さまに噴いてる!人間は面白いことを考える生き物だねえ!」

と周りをうろうろ歩き出した。

公園に居た人間は不審そうに避けて行ってしまったが、3号は満足そうに見やって、公園に売り出しているポップコーンを買って食べ、それも5号を喜ばせた。

「どれがこどもなんだろう」

ベンチで落ち着くとそんな話になった。

「さあね、どれも同じように見えるけど」

「小さいのと、大きいの、今の3号くんみたいなものも居るよ」

「それを言えば君みたいな人間だって居るようだよ」

「本当、色々いるんだね。これじゃこどもがどれかわからないや」

困ったなあとため息をついた5号に、3号が何かいい案がないかと考えていると、そこに天使が颯爽と現れてしまった。

「罪です」

3号と5号は顔を見合わせ、3号は手汗を握りしめ逃げる算段を頭の中で練り出したが見つからず、5号は「何がですか?」と首を傾げた。

次の瞬間、3人ともが一気にその公園から消えてしまったが、それを気にする人間など1人たりとも居なかった。


天使は神の御前に二人を立たせた。

そして銀のハープで悠然なる音楽を奏でる。

神は薄い皮膜に入った部屋の中で言葉だけを二人に伝えた。

「なにをしておった......」

3号も5号も黙りこくった。ただ急かすようなハープの音ばかりが流れる。

5号が口を開く。

「ぼくは、アリスというこどもに会いたかったのです。いけないことだとは知らなかった、罪になるのであれば、裁きのままに」

3号は頭を抱えた。

このままでは二人ともサンタクロースを剥奪され、悪くすれば魂となり全ての世界でただ流転するだけの者となってしまう。それはどんなに途方もなく、永い退屈になるだろう。恐ろしい。

しかし3号にも、これを切り抜ける方法は見つからない。

二人は次の瞬間、格子のはまった牢屋へと移っていた。手枷をされ、ゆるい光が漏れるしかない地下牢のようだった。

「どうしよう、3号くん」

泣きながら蹲る5号に、3号は謝るほかなかった。

「ごめんね、5号くん。君は罪になるということすら知らなかったのに。僕は、君を巻き込んでしまった」

「いいや、違う。僕が言い出したんだ、アリスちゃんに会いたいって」

「......どうして、会おうと思ったんだ?」

5号は、嗚咽混じり途切れ途切れにぽつりと話し始めた。


僕ら、サンタクロースは物をプレゼントできないだろう? 出来ることといえばほんの少し良いことが起こる小さな奇跡を芽吹かせることくらいだ。

例えば、父親の仕事が少しうまくいくとか、好きな子が少しいつもより機嫌がいいとか、ママの料理が美味しいとか。

こどもはそんなことは知らずに、サンタクロースに手紙を書く。

こどもの手紙は子ども自身が手で描くものではなくて、心の中に描いたものが僕らに届くそうだ。

でも、物がほとんどで、その通りにはプレゼントできないから、その品物が届きやすいようにしたりと間接的に手伝う他ない。

だからいつも僕はうんざりしてた。こどもにじゃない。僕は僕にうんざりしてたんだ。サンタクロースなんてなにもできないじゃないかって。どんなに些細な幸せを送っても、とても人生が変わるような奇跡は起こせない。

サンタクロースはなにもできないくせに、子どもは真っ直ぐ手紙を送るんだ。

そんな中、アリスの手紙を読んだ。

内容はたったひとつ、80年ほど、こどもにしては長く手紙を送ってきた。

【幸せを皆に】

小さな幸せしかあげられない僕も、世界の端っこに居てもいいんじゃないかって思えたんだ。



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クリスマスにまつわる10のこと 七山月子 @ru_1235789

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