(4)サンタクロースの願いごと〜その1〜


雪がまだ降らない。

サンタアパートに住むサンタ3号は晴天の空を見上げていた。

雲ひとつない、まっピンクの空。突き抜けるように晴れやかな、幻のこの世界にはサンタを始め、幻獣、伝説、宇宙人......など非科学的な者がかき集められ住まう。

クリスマスがもうすぐだ。

サンタ3号は、自分のトナカイ(トナカイ3号)に餌をやりに厩へ小走りで向かった。

雪が降るとこの街は、真珠のように輝きを放ち、それはそれは美しいのだ。それになにより、「こども」からの手紙を読むのがサンタ3号の生きがいだった。

はやく、読みたい。はやく、クリスマスにならないかな。

その道すがら、バケツに水を汲んでやはり厩へ向かうサンタ5号の姿が見えたので声をかけた。

サンタ5号はサンタ3号の親友だ。クリスマスの夜に現実世界で「奇跡」を起こす地域も近い。

トナカイ3号は荒ぶっていた。鼻面を少し撫で、サンタ3号はゆっくり甘やかにささやく。

「相棒、今日のお前も素敵だよ。お前のために今回ご馳走をこっそりもってきてやったよ。お前ってコレがなきゃだめだもんな」

サンタ3号はマーブル色の怪しい粉を餌に振りかけた。

トナカイ3号はニヤッと笑ってそれを勢いよく喰らう。

「はっはっは、そう急くな。せっかく幻獣賭博でせっせと儲けたモンなんだから味わって食えって」

トナカイ3号はそれに答えるようにぶるると鼻を鳴らし、舌舐めずりをするのだった。

餌場でトナカイ3号に餌をやりおえたサンタ3号は、水をやり終えたサンタ5号と目配せで喫煙所へ一緒に向かう。

「最近、ありすちゃんからの手紙が一向に来ないんだ」

サンタ5号は白い眉を下げてそう言う。

「こどもかい?」

「うん、今までで一番気にしていた子だよ」

「どのくらい途絶えているんだ?」

「100年くらいだろうか」

「そうかあ、ちょっと長いね」

サンタたちは人間のことをあまり知らなかった。クリスマスイヴの夜にしか現実世界には降りたことがないのだ。わからなくて当然だろう。

しかし、それから三日経ってもサンタ5号はありすという名のこどもからの手紙を気にしていた。

「今年もないのかな」

寂しそうに髭をいじるサンタ5号を見兼ねてサンタ3号はふと思いついたのだった。

「そうだ、5号くん! いっそ会ってみないかい。人間に化けて少し様子を見るのさ。僕らがサンタクロースってことがバレなければ、神様だって許してくれるさ」

「そんな、でも、そんな。どうやって?」

「この間、知り合いの妖怪から......もらったのさ。人間に一日だけなれる薬をね、珍しい物だから部屋に置いてあるんだ」

実を言えばサンタ3号は妖怪からカツアゲをしてそれを入手したのだが、サンタ3号はこの純朴なサンタ5号には言えなかった。そしてそんな嘘を純粋に信じてしまう彼を、サンタ3号は好いていたのだった。

「なんて心優しい妖怪たちだろう。今度、お礼をしなくちゃならないね」

サンタ5号はそう言って、にこやかに笑った。

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