(2)クリスマス・プレゼント

動画を3D映像にして、死者を部屋に映し出す......そんな発明品が開発されたらしいのはここ3年のことだ。


「え? ......ポロポロ?」

「うん、クリスマス・プレゼント」

エイトが私にくれたそれは、先月死んだミーの映像が入ったポロポロ。

スイッチをおせば、生前のミーが映し出される。そう告げて、詠都はキスを軽く、仕事があるからと帰っていく。


ミーは毛艶のいい縞模様をした猫だった。しっぽを触ると、生まれつき少しだけ曲がった箇所がある。

どこを触ってもなにをしても動じない、肝の座った猫だった。抱っこだけは嫌がって、焦ったように腕から滑り降りる。でもその焦ったような仕草が可愛くて、無性に抱きしめたくなったりしたものだ。


まだトイレだって片付いてない。

餌の器も、そのまま。

面影を忘れたくなくて、散々撮った写真も印刷して壁に貼ってある。


ポロポロは24時間分の映像が入る。

動画の年月日をみると、ちょうど2年前の今日。クリスマスイヴだった。

わたしはそっと、スイッチを押した。


ガリガリガリと音がするので壁を見れば、壁を透かした半透明の身体で、ミーの映像が映し出された。

2年前の今日、14:00、ミーは壁で爪とぎをしていたらしい。


私はその姿を見ながら、2年前のクリスマスイヴを思い出していた。

確か、朝起きてしばらくしたら、エイトがインターフォンを押して、私を車に乗せたまま、30分ほど待たされていた。あの時、カメラをこの部屋に仕掛けたのだろう。

だから殆ど一日中、ミーは一匹でこの部屋に居たことになる。


ミーがしっぽを揺らしてゆっくり歩く。途中でふと止まって、何かを見つめている。虫でも居たのだろうか。じゃれるように手をのばして、そのうちお尻を振って飛びかかる。嬉しそうに猫キックをしている。虫ではなさそうだ。

スッと飽きたように立ち上がるとあくびをして耳をかき、何かに飛び上がって寝始めた。


そうか、2年前には置いてあったソファーの上だ。ミーはそれがお気に入りだった。

空中に薄い身体で寝息をたてているミーにたまらず、私はリビングの椅子を持ってきて位置がずれるので化粧台の椅子をもってきてそこに置いた。今度はぴったりで、ミーが化粧台の椅子に寝ているように見えた。

触ろうと指を伸ばすと、当たり前にそれはさわれず。窓から夕陽が差し始めればミーの体はあっという間に茜色になってしまう。

16:00、ミーが起きて餌の器にかぶりつき、しっぽを揺らして顔を洗ったあと、耳をぴくりと動かして玄関を見た。それからなに食わぬ顔で何かを目で追い、ニャオ、と鳴いて餌場に向かう。

二年前、私が帰ってきたのだろう。

「ふふ、ご飯、食べたばっかりのくせに」

知らずにいた二年前の私が餌を入れて、おかかを一心不乱に食べ始める。

それから椅子の上......今、私がいるその横で座り出す。

「ミーは、幸せだったかな」

そういうと、ポロポロの映し出したミーは、私の方をふと見つめ、目を細くした。


そうだね。私も、君がいてくれて幸せだった。ありがとう、Merry Xmas、ミー。

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