第2話 それってうまいの?

 相変わらず篠山がアクションRPGを進めている。

 篠山は画面を見ながら口を開く。

「ねえ、百山さん」

「何かな」

「どうしてこうなったんだっけ」

「さあ、どうしてだろう」

「だよねー。……あ、今デジャヴきたかも」

「同じような会話がさっきもあったからな」

「なるほど。――ってそうだった。今度こそちゃんと聞かないと。ゲームが面白すぎて忘れてた」


 篠山はゲームを一時停止して百山のいる隣の方へ向き、

「百山さんもさっきの人にここに連れてこられたんだよね」

「そうだな。それで状況から察するにここでゲームをするのが正しい判断みたいだ」

「やらないとあの刀でバッサリやられちゃうのかな」

「刀かどうかはわからないが消される可能性はあるだろうな。再開してくれ」

「うん」と篠山は前を向きゲームを再開する。

 それからすぐに、

「百山さんってゲームで遊んだりしないの」

「昔は寝ないでやってたが今はほとんどやらないな」

「そうなんだ。僕はよく徹夜でやってる。だから学校じゃ眠くて大変なんだけどね」

 百山が「フッ」と笑った。

「それは頼もしいな」


 *


 アクションRPGは最初のエリアがクリア状態になった。

「交代する?」

「いやいい。見てる方が楽だ」

 篠山が隣を見ると、百山の視線はまだ画面へ向いたままだった。

「オッケー。じゃあもうちょっと進めることにする。そういえば、百山さんってあまり学校に来ないけど、今日は制服なんだね」

「行こうと思って着るんだがな、外に出るとその気がなくなる」

「ちょっとわかる。僕も、なんかしんどい日はデリバリーされるピザの気分っていうのかな、運ばれて食べられるだけの未来を受け入れがたく思う時もある」

「不思議なことを言うんだな。じゃあそういう時はどうするんだ」

「とりあえず学校に行ってみるか、別の場所に行ってみる」

「帰ってゲームかと思ったが」

「ピザとしては、運ばれるのも食べられるのも嫌じゃなくて、たぶん好きなだけ寄り道できないのが嫌なんだと思う」

「わがままなピザだ」

「じゃあ突然ですが問題です。ピザの中にある人間の一部ってなーんだ。先に言っとくけどヒジではありません」

「それを言うならヒザじゃないのか。じゃあミミ。俗称みたいなものだが」

「正解です。でも愛情とか魂でも半分正解で、両方ならハーフアンドハーフで正解」

「強引だな。というかそれ人間の一部なのか」


 *


「百山さんって同じクラスだけど、僕のこと知ってる?」

「ああ、そういえばまだ呼んでなかったな。篠山だろ。篠山竹一。入学した後に話したことがあったから覚えてる。学校に行ったのは入学式とその後の一回だけだから話した相手も少ないし記憶に残ってるんだ」

「そうだっけ」

「そうだよ。たしか――」


 百山の話はこうだった。

 入学式の次の登校日、昼休みに百山は施設の場所を覚えるため校内を歩きまわっていた。すると半べそをかいて歩いている茶髪ショートヘアの男子生徒が目に入ったので心配して声をかけると、同じクラスの篠山竹一だということがわかった。


「ちょっと待って。半べそはかいてない」

「思い出したのか」

「思い出してないけど半べそはかいてない」

「そうか。それでだな――」


 百山の話は続く。

 どうして泣きそうなのか尋ねると、食堂が見つからなくて困っていると言う。誰かに聞けばいいと言うと、高校生活はナメられたら終わりなんだ、などというよくわからないことを言ってきかないので、百山は篠山のちんけなプライドを気遣ってコンビニに行くことを提案したのだった。


「ホントに僕そんなこと言った!?」

「言ったよ。思い出したか」

「いや。思えば、昼休みにコンビニに行くようになったキッカケがその頃にあったような記憶はあるけど」

「それでその後に――」


 百山の話はまだ続いた。

 午後の授業の予鈴が鳴っても篠山が戻ってこないことを心配した百山は、急いで校舎から出ると校門周辺の外の様子を確認した。すると、校門付近の路上に猫まみれで倒れている茶髪ショートヘアの男子生徒を目撃し、心配して声をかけたところ篠山だということがわかった。


「……ちょっと思い出したかもしれない」

「それはよかった。それから私が篠山の上から猫を取り除いて身動きがとれるようにしたということだ」

「完全に思い出した。たしかあの時は僕から――」


 猫から解放され意識を取り戻した篠山は百山を見上げる。

「ねえ、百山さん」

「何かな」

「どうしてこうなったんだっけ」

「さあ、どうしてだろう」

「だよねー」

 だよねー――

 だよねー――――


「これがデジャヴの真の原因かっ……」

「そういえば、あの日はもう時間がなくて昼飯間に合ってなかったな。あの袋に入ってたポテチとコーラ。今でも思うが昼飯にあのチョイスはどうなんだ」

「昼飯は向こうで食べてきたよ。あれはおやつなんだ」

「なるほど。半年経って小さな真実にたどり着いたわけだ」


 *


「篠山、二つ聞いていいか」

「ん? どうしたの」

「もしこのままここに閉じ込められるとなったらどう思う」

「諦めるかな。僕は強くもないし体力もないから、刀を持った相手にかなうとは思ってないし」

「そうだな。危険なことは避けた方がいい」

「でも、楽しむことを諦める気はない。ここには遊ぶものも食べるものも、それからどうでもいいことを楽しく話せる相手がいるからその点は心配してないけど」

「話していて楽しいか」

「もちろん。最初はどうして百山さんなんだろうって思ったけど」

「それは不満ということか?」

「いいや、こうでもないと百山さんについて知る機会があったかわからないからさ、ラッキーだったと思うよ。だから今のところここが幸運の部屋だって言われても疑わないかな」

「そうか。それじゃあ二つ目の質問だが、そのポテチの〈焦がしベーコンエッグ風味〉って、うまいのか」

「うん。最初はそれ、普通に失敗した朝食味だよね? って思ったけど、意外といける。百山さんも食べる?」

「私はいい。遠慮しておく」

「おいしいのに。……あ、それじゃあ僕からは相談があるんだけどさ。トイレってやっぱりあの仮面の人に言った方がいいのかな」

「そういえば知らないんだったな。大丈夫だ、私が案内しよう」

「え?」

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