第4話  おじいと熊

...ハッ!

ここは...?そうだ自分の部屋だ。どうやらあの後気絶してたみたい。あれは...何だったんだろう。魔法といっていたけれども、本物かな?マジックってことはない?でもちゃんと指先で光ってた。オレンジがかった淡い光が指先から出てサッカーボールぐらいの大きさの範囲を照らしていた。ここはもしかするともしかして...



異世界とか...


ラノベを少し読んでいたからわかるけど、本当にここが異世界だったら、魔法が使えることにも説明がつく。でも、異世界だとしたら何故マミーとルチアの言葉がわかるんだろう。この世界では日本語が主流なのかな?あぁーーー!考えれば考えるほど頭がこんがらがる。いったんこの話は置いておこう、うん、その方がいいよね。


「メル~、起きてる~?」


ん?これはマミーの声だ。


「あぅ~。(起きてるよ~)」


「まぁ、起きてたのね。ルチアったらね、メルが気絶したって、大騒ぎしてるのよ。大げさよね。後で言っておかなくちゃ!」


プンプンッと、頬を膨らませて起こるマミーはめちゃくちゃかわいい!!月の光のような透き通ったホワイトブロンドの髪がさらさらと揺れて、ベビーブルーの瞳がウルウルとしている。お姫さまってこんな感じなんだろうな―って感じの幼さが残る女性。白のプリンセスラインのドレスがとっても似合うとおもう!今は、水色でひざ下までのフレアドレスを着ている。かわいらしいマミーにはぴったりだ。


「あのね、今日はメルに紹介したい人がいるのよ。」


「あぅあ(なに~?)」


「お父様、いらして。」


「お、おう。」


「あぅ?!(んぎゃ?!)」


やっばい、変な声出た。だっていきなり、熊が出てくるんだもん。明らかにマミーより、40㎝はでかい。くすんだダークブロンドの髪にマルーンの瞳。いかつい顔をして無精ひげを生やしている。こんな人間見たことないからおそらく人間じゃない。きっと...



「少し怖い顔してるけど、とてもやさしいのよ。」


「あぅ?あーあうあ、あうあうあ!あうっ!(はぁ?子供が見たら、逃げ出すよ!絶対!)」


「なんか、文句を言ってないか?」


「そんなことないわ。お父様を初めてみるから驚いているのよ。」


「あう!あうあっ!うっうぁ~!(来んなッ!こっち来ん貴様が私のおじいなんて信じないからな!)」


「そうは見えないが。」


「もう、お父様ったら。ほら、渡すものがあるんでしょ。」


「あ、あぁ。メルティナ、お前にこれを。」


渡されたのは、熊だった。


「あぅ?(は?)」


「ソフィア、やはり赤子にこれを渡すのはまだ早いのではないか?」


「贈り物をするのに早いも遅いもないですよ。お父様見てくださいな。メルったらじーっとアズール様を見ているわ。」


「む、確かに。」


いや、だって、この熊...


めっっっちゃかわいいもん!


丸いお耳に、もこもこの生地!いつまでも眺めていたくなるそのフォルム!しかもしかもっ!なんとこの熊!お洋服を着ている!!!シクラメンピンクの淡い色に白色のフリルがふんだんにあしらってある。胸元には金縁のリボンがついていて一番に目についてしまう。熊の目は赤い色をしていてマミーと同じサラサラのホワイトブロンドの髪の毛が熊にもついている。か~わ~い~い~!!!よし、熊をおじいと認めよう!


「メル、この人形はアズール様といって、私たちの家の守り神なのよ。昔、このアーリヤス家の十三代目当主が森で迷った時にこのアズール様に助けてもらったんですって。それまでアズール様は凶暴なグリズリーの長として恐れられていたのだけれど、十三代目は恩を忘れないようにアズール様をこの家の守り神として崇めていたそうよ。それから、アーリヤス家では子供が生まれたらその子供の特徴に合わせたアズール様の人形を贈ることが伝統になったの。すごいでしょう。」


す、すごすぎる。何がどうなって子供に人形を贈ることが伝統になったかは分からないけど、守り神とかいるんだ...てか、グリズリーって何ですか?何で熊が人を助けるの?!あ、あれかうちの直接的なご先祖か?当主を気に入った熊は森で手助けしたそのまま嫁入りか婿入りして子供創ったんですか?だからうちのおじいは熊の地を強く受け継いでいるんですか?めちゃくちゃすぎる...


「お前が生まれてから、人形を作らせたから、会いに来るのが遅くなった。ソフィアからお前の特徴や話は聞いていたが、一つも間違えがなかったようだな。アズール様の加護を強く受けられるようそれをそばに置いておきなさい。いつかお前の力となるだろう。」


お、おっふ。わかりましたです...そうしたら私もいつか熊になるんでしょうか?い、嫌だ。だ、大丈夫。母上はこんなにかわいいから私は熊にならない、ならない...ならないよね。


「お洋服も素敵でしょう。お父様は服飾のお店を営んでいるからお針子さんもたくさんいてね。私もそこで働いているのよ。お店にはこの街一番のお針子もいてね、どんな仕事よりも私の孫のアズール様を作れってお父様騒いでいたわ。ふふっ、今でも鮮明に思い浮かんでくるわ。」


ん?なんですって。


「それにね、アズール様に国一番の防御結界もつけるんだって、わざわざ王都まで行って大魔導士様に最高の決壊魔法をかけてくれるようにお願いしてくださっ。いいおじいちゃんでよかったわね、メル。」


「おいっ!それくらいにしておけ。私はそんなことしておらんっ!」


「お父様ったら照れちゃって...だから、あなたのアズール様にはとても強力な防御魔法がかけられているから、どんな不埒者が来ても安心だわ。愛されてるわね。」


「あう~。(そうなんすか~)」


ちょっと待てよ。お針子って言ったら、ある意味デザイナーみたいなものでしょ。その店をア母様が手伝っているということは、そのうちお店を継ぐ...?となったら、ゆくゆく私もお店を...?ぐふふ、もうお洋服が作れないかと思って絶望した日々もあったけど、これは起死回生の一手!私もお洋服を作れるじゃないか!おじいがなんかもうアズール様に見えてきた...アズール様万歳!!熊の神様万歳!




この日から私はおじいをアズール様と信仰するようになった。

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