魔戦士ウォルター83

 山賊とは違う。敵は傭兵だ。

 斧を交える度に得物越しに殺気と練度が伝わって来る。

 殺しのプロが相手となると少々厄介かもな。

 ウォルターは斧を薙いだ。

 前方の敵兵が慌てて避ける一方、敵は次々湧いてくる。

 鎧は着てないくせに、武器は帯びていやがる。

 ウォルターは舌打ちした。

「ウォルター! 囲みを突破するぞ!」

 背後で槍を振るう弟のソレル。いや、ファイアスパーが何度目かの声を上げた。

 だが、敵兵は強く、囲みは厚くなるばかりだ。物見遊山で来たのだろうが、状況を知ると慌てて加勢に出て来る。

「ファイアスパー、コボルトを連れて離脱しろ! 鷲になって!」

「お断りだ! 私は最後まで共にいるぞ! どうにか離脱して、せめてエスケリグ殿が気付いてくれれば!」

 悲鳴が背後から聴こえた。

「エンチャント風!」

 ファイアスパーの声が轟く。

 その手しかないか。だが、どの道、一時凌ぎだが、生きていなければ意味が無い!

「エンチャント風!」

 ウォルターも声を上げ、剣に風を宿す。

「吹き飛べ!」

 ウォルターが剣を振るうと風が吹き荒れ、前方の敵兵が風に押されて行く。

「ちいっ!」

 ウォルターは更に力を上げた。

 風は嵐となり、敵を吹き飛ばした。

「行こう!」

 ファイアスパーが言った。

 ウォルターとファイアスパー、そしてコボルトの女は駆けた。

 正面に立つ者はいない。家々の屋根の一部も剥がれている。

 ウォルターは命辛々逃げ延び門扉を蹴破った。

「お前、ここの奴らじゃ」

 言い終える前にファイスパーがエンチャントを解除した槍で門番の喉を切り裂いていた。

「二手に分かれるぞ。今度こそ、お前は上空から行け!」

「分かった、皆に知らせてくる。後で会おう!」

 ファイアスパーは鷲になり飛んで行った。

「さて、走るぞ毛玉!」

「毛玉じゃありません! コボルトです!」

 追っ手はいなかったようだが、二人は走り、樹海の入口へと辿り着いた。

「ウォルター、何があった?」

 エスケリグが顔を出して尋ねたが、走り疲れ大の字になって倒れている毛玉を見て察したようだった。

「仕方が無い。一度戻って策を練ろう!」

 コボルトをエスケリグが抱え、ウォルターらは森の中を駆けた。

 城壁が見え、アックスとギャトレイが出迎えていた。

 既に緊急を知らせる鐘の音色は聴こえていた。

「御苦労だった、ウォルター。玉座へ行こう、イーシャ殿が待っている」

 アックスが言い、息を上げながらウォルターは後に続いた。

「ウォルター!」

 玉座の間の扉を開くと椅子に座っていたイーシャが飛んできて抱きしめた。

「イーシャ悪い。ここがバレた」

「分かった」

 古参の代表者と旅の仲間達が揃い会議が始まった。

「敵は傭兵だ。戦い慣れている」

 ファイアスパーが言った。

「何人来ようと吹き飛ばしてしまえば良い」

 灰色の外套を纏ったシュガレフが得意げに言ったが、賛同する者はいない。

「コボルトを助けて下さい!」

 一瞬の静寂の後、連れて来ることになった今回の元凶ともいえるコボルトの女が声を上げた。

「お前の名でコボルトは呼応するか?」

 イーシャがコボルトに尋ねた。

「呼応します!」

「二百のボロ雑巾が仲間になってどうなるって言うんだ」

 ウォルターは拳を握りしめてそう言っていた。俺が迂闊だった。俺がこいつを見捨てていれば、こんな大事にはならなかったはずだ。

「ウォルター、そんな顔をしてはいけない。駄目だ」

 イーシャが飛んで来て彼を翼で抱きしめた。

「陛下、距離はありますが、傭兵のクランの頭領アスゲルド殿と、私の同族ゴブリンのオーカスという者がいます。まずは彼らを頼りましょう」

 ギャトレイが述べた。

「ここを捨てるということか!?」

 エスケリグが声を上げた。

「落ち着いて、エスケリグ殿。こんな良いところを敵にやれるわけがない。いや、やらせはしない。そうだな、我らが王よ」

 ギャトレイが言うと、イーシャが抱擁を解き、ウォルターは全員の熱い視線をその身に受けた。

 途端に足掻いてやろうという勇気が漲って来た。

「分かった、アスゲルドとオーカスに使いを出せ!」

 ハーピィ族の者が二名頷いて扉を開き飛んで行った。

「俺達は援軍が来るまで粘るぞ! 何日だって戦ってやる! ここを敵に渡しはしない!」

 ウォルターが言うと一同が声を揃えて応じた。

 すると、さっそくハーピィの伝令が飛んで来た。

「敵勢の姿を確認。五十人ほどだが、奴ら、森に火を放っている」

「樹海で迷ってしまえばと思ったが、甘かったか」

 アックスが無念そうに言った。

「エスケリグ、案内を! これ以上、森を丸裸にさせるか!」

「分かった!」

「ウォルター」

 イーシャが彼の名を呼んだ。

「ここは任せた。必ず戻る」

「必ずだぞ」

 二人は頷き合った。

 そして戦士一同と外に飛び出す。

 ふと、ショーン・ワイアットが移動していることにウォルターは気付いた。

「私も住人のつもりだ、王よ。我が双剣、命尽きるまで皆に捧げよう」

 考古学者はそう言うと再び駆け出した。

 外にはリザードマン部隊が、上空ではハーピィ達が勢揃いしていた。

「総勢三十、いつでも動けます!」

「こちらは総勢四十。同じくいつでも行ける!」

 リザードマンとハーピィ達が声高に言った。

「勝ちに行くぞ! 出陣だ!」

 ウォルターが声を上げると、一同は鬨の声を上げた。

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