魔戦士ウォルター73
首と腕が千切れ跳ぶ。
実際、この巨剣は見た目以上に切れ味が良かった。重さもあり、特に一刀両断するには事欠かない。
城門からさっそくの改造されたしもべとの戦いは始まっていた。
「ちっ!」
ルインはオーガーを相手に苦戦していた。
力をセーブしているのだろう。ここには新鮮な血がたくさんある。だが、ウォルターは彼女に力を解放するようには言わなかった。血を吸う行為を彼女自身は望んではいない。キモリとの数知れずの戦いの中、慣れてしまったのかもしれないが、彼女自身は望んではいない。
ウォルターは剣を薙ぎ、敵を吹き飛ばし、ルインを押し退けオーガーを一刀両断に切り裂いた。
「すまない」
ルインが言った。
「いい。それよりも気を抜くな」
修羅だ。修羅になれ。ウォルターは咆哮を上げて新たに廊下に現れる敵を切り裂いた。
城内は複雑だが、ルインが道を知っていた。
その証に道の先にはキモリが配備したとされる改造戦士や怪物達がうようよ待ち受けていた。
城内が広く高い造りなのが幸いだった。こいつを振るうのに躊躇は無い。トロールの脳髄が裂け、コボルトの槍投げを受け止め弾き返し、突撃する。そうして第二射をさせる間に息の根を止める。
それにしても疲れた。百人斬りした気分だぜ。
ウォルターは呼吸を荒げ、俄かに戻った静寂の中、剣を床に突き刺し、休息していた。
ルインが心配そうにこちらを見ている。弱いが同じく動いたはずだ。なのに彼女は息一つ乱していない。キモリの改造の成果か、それともヴァンパイアがそういう種族なのか。
まぁ、どちらでも良いがな。
ウォルターが歩み出すとルインは安心したように先導する。
と、前方の扉が勢いよく開き、腕が四つだったりするゴブリン達が威勢良く駆けて来た。
「どいてろ」
ウォルターは呼吸一つし、駆けた。疲労困憊の脚と重い剣を浮かせっぱなしの痛む腕に鞭を打ち、敵を討ちに行く。
すると背後の部屋の扉が開きドラゴンのような鱗に覆われたトロールが二体現れた。
さすがのウォルターも前と後ろを同時に相手にはできなかった。
「こちらなら大丈夫だ」
それはつまり。
ウォルターは声を上げゴブリン達と対峙し斬っては、避け、そして突っ込んで剣を旋回させる。
背後を見ると、ルインはやはり力を使っていた。跋扈し、トロールの首を刎ねていた。また、もう一体の固い鱗を物ともせずに斧で一刀のもとに殺めていた。
ウォルターはしつこく飛び出してくるゴブリンを相手にしていた。
ようやく制圧し、改めて振り返る。
ルインの顔は血に濡れていた。
「心配いらない。先へ進もう。行けるか?」
彼女はそう言い、歩み出す。
「少し待ってくれ」
ウォルターはさすがに疲労に根を上げた。どっかり石畳の上に腰を下ろした。
「大丈夫か?」
ルインが尋ねてくる。
「顔、拭いた方が良いぜ」
「いや、慣れている」
ウォルターは重い腰を上げて立ち上がると布切れで彼女の顔を拭った。
再び戻った静寂だ。ウォルターの息遣いしか聴こえない。
「ありがとう」
少ししてルインが言った。
「キモリを斃して妹さんを救おうぜ」
ウォルターはそう言いニヤリと笑みを浮かべて見せた。
ルインはハッとした様子でソッポを向いた。
何か悪いことでも言ったか?
ウォルターは立ち上がる。疲労は蓄積されたままだ。安宿のベッドでも良い。シーツの上に横たわりたかった。
「行けるのか?」
ルインが尋ねる。
「ああ、行こう」
ウォルターは同意した。
回廊を進み、階段を上がろうとすると頭上から雷撃が降り注いできた。
ウォルターは一瞬の間に勘の赴くまま反射の魔術で跳ね返した。
「ギャッ!?」
ゴブリンが落ちて来た。
すると吼え声が上がり、階段を続々と敵兵が下って来た。
ルインが身構える。
「任せて置け」
ウォルターは手で制し剣を持ち直すと、敵の獰猛な声に負けじと根性を出すべく勇猛な声を張り上げて階段を上がり、敵を次から次へ斬って捨てた。真っ赤な眼光が幾つも光り、新手が出現する。
「全てを破壊せよ、エクスプロージョン!」
爆炎が敵をまとめて焦がし灰とした。
途端にクラッとし、ウォルターはベルトのポーチから瓶を取り出し、呷った。
「クソ不味いな」
ポーチに瓶を戻す。屍以外、ポイ捨てはしない主義だ。
「片付いたぜ」
「ああ。すまない、案内する」
ルインは我に返ったように一瞬真っ赤な眼光を反らすと階段を駆け上がって行った。
新たな廊下にはコボルトの槍投げ兵が展開していた。
言葉ではない。唸り声を上げて投擲してくる。
ウォルターは魔術の壁を築いた。これが無難な手段だ。ヒビは入るが。
「私に任せて置け!」
ルインが斧を手に駆けようとするのをウォルターは肩を掴んで引き止めた。
「敵を貫け、エナジーアロー!」
無数の光りの矢がウォルターの手から飛び出しコボルト達を貫き絶命させる。
「何故、引き止めた?」
ルインが不満気に振り返って言った。
「力は大切にな。俺は実際、疲れ切ってる。キモリとやるならお前を当てにするしかないと思ってる」
ウォルターが言うとルインは目を反らした。
「すまない」
「気にするな。当てにしてるぜ、相棒」
ウォルターがそう言うとルインが慌てて手を掴んでいた。
「ん? 何だ?」
「い、いや……。すまない」
ルインはそう言うと先導すべく歩き始めた。
「まぁ、良いか」
ウォルターも血の滴る剣を担いで後に続いたのだった。
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