魔戦士ウォルター72

 ルインの一撃をドクターキモリは片腕で受け止めた。白衣の袖口に何か見える。

 と、そこから稲妻のような光りが走り、たちまちルインに絡みついた。

「ぐあああっ」

 ルインが悲鳴を上げて地面に倒れる。

「どうした壱号、相変わらず威勢と反骨心だけじゃな」

 ルインはもだえ苦しんでいる。

 ウォルターは駆けた。鉄の柱の様な剣を振るった。

 ドクターキモリはそれを横に避ける。

「今回の犠牲者も活きが良いな。よろしい、お前が道半ばで倒れたら実験生物に改造してやろう」

「何が実験生物だ! この太っちょジジイが!」

 ウォルターは剣を横薙ぎにする。

 ドクターキモリは左腕で受け止めた。

 ウォルターは剣から手を離した。剣に雷撃が走る。ウォルターは短剣を抜き放ち投擲した。

 それはドクターキモリの胸に突き立った。

「やるようじゃの」

 ドクターキモリは短剣を抜くと放り捨てた。白衣が黒く染まっている。

 急所のはずだぞ!?

 驚くと、我に返り、ウォルターは再び駆け、手を伸ばして巨剣を拾い、力の限り振るった。ドクターキモリの脚を狙ったが、キモリは高々と跳躍し避けた。

 これはヴァンパイアの力か。ルインがやって見せたように。

「ふぅむ、本当にやるようじゃ。壱号、それでお前はいつまでそんなところで寝転んでいる?」

 キモリがルインのもとに歩み寄り、顔に足を乗せグリグリと動かした。

 と、ルインの姿が消えた。

「キモリィィィィッ!」

 ルインは大上段から斬りかかった。

 ルインの斧はドクターキモリにかわされた。

「ほっほっほ、時間じゃぞい」

 そう言うとキモリは腕を掲げた。

「グルオオッ!」

 右手の霧の中から敵が現れた。

「それではの」

 キモリは館の扉に手を掛けた。

 と、ウォルターは突っ込んだ。

 鉄の柱とも言うべき剣を突き出した。

「ぐおおおおっ?」

 剣はキモリの背から貫かれ扉に突き立った。

「エンチャント、炎!」

 ウォルターの声のもと、剣に炎が宿り、キモリに移り、炎で包んだ。

「これは!? こんなことがあるとは、思わなんだ。嬉しいぞ、実験台君」

 キモリの身体は炭となった。

 キモリを斃した。

 と、オークと、ルインが打ち合っていたが、ルインはフラフラだった。

「どけ、ルイン!」

 ウォルターは咆哮を上げて突っ込み、剣を旋回させオークの首を取った。しかし、燃える剣はオークを灰へと変えてしまった。

 迂闊だった。ルインが血を吸えない。だが、黒幕のキモリは斃した。

「しっかりしろ、後はお前の妹を助けるだけだろう?」

 ウォルターはルインが姫と言ったことを覚えていたが、あえて妹とした。真実なら後で分かることだろう。

「違う」

「何だって?」

「あれはキモリの偽物だ」

 すると城から哄笑が響いた。

「ほっほっほ!」

「何っ!?」

「わしじゃよ。実験台君」

「キモリ!?」

 ウォルターは瞠目した。炭となった亡骸ならここにある。しかし、城から聴こえる木霊の様な声は間違いなくキモリの声だった。

「お主が斃したのはわしの分身じゃ。お主を甘く見ていた。わしが出て行かなくて本当に良かったわい。じゃが、魔術を使えるとはますます気に入った。是非ともお主の身体という素材を得たいものじゃな。せいぜい苦労してわしの元まで来るのじゃ。安心せい、道半ばで斃れれば、その時はワシ自らが出向いてお主の身体を回収し有効利用してやろう。ほっほっほ」

 キモリの声が聴こえなくなった。

「ルイン、動けるか?」

「あ、ああ、こんなところで……」

 ルインは斧を支えとして立ち上がっていたが顔色が悪かった。

 ウォルターは一つの賭けに出た。

「伝承のヴァンパイアなら血を吸った相手を同族に変えるらしいが、今のお前もそうなのか?」

「いや、そうはならない」

「分かった」

 ウォルターは短剣を拾うと腕に突き立てた。

「何をやっている!?」

 ルインが驚きの声を上げた。

「俺の血を分けてやる」

 短剣を引き抜くと左腕からは血が流れ出てきた。

「血、血、血、うわあああっ! し、しかし」

 ルインは狂ったようにそう言い自制していた。

「飲めよ、勿体ない」

 ウォルターが言うとルインは血を舐め始めた。そうして傷口に口を付けた。

 ルインはさすがに魔物の亡骸ほど血は吸わなかった。それでも歩みはマシになった。ウォルターは布切れを出して腕に巻き付けた。

「すまない。助かった」

 ルインが言った。

「ああ」

 彼女の目が赤く輝いている。

 だが、ウォルターは痛感していた。ルインは力を出し切った時以外、つまり力を温存、セーブしている時はてんで弱い。これは俺一人だけで来たのは失敗だったかもしれない。

 だが、キモリの怪物がうろついている以上、倒れたギャトレイ達をそのままにはしておけない。シュガレフとカランでも苦労するだろう。結局、これが最善の選択だったわけだ。

「キモリの城は怪物だらけだ。油断するなよ」

 お前が言うのかよ、お嬢さん。

 ウォルターは頷いた。

「行こう」

 ルインはそう言うと城の鉄の扉を押し開けた。

 外とは違い燭台という燭台に着いた灯りが、冷えた廊下に蔓延る敵を照らす。真っ赤な眼光を光らせたオークにオーガー、改造生物どもがウヨウヨ待ち受けていた。

「たあああっ!」

 ルインが攻撃を仕掛ける。

 ちっ、下がってろという方が無理か!

 ウォルターも咆哮を上げて身の丈以上もある大剣を振るった。

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