魔戦士ウォルター42

 翌朝、寒さで冷える中、人間の里に入った。

 門番に商業区の場所を聴き、一同は馬車を歩ませ、多種多様な人種のいる里の道を歩いていた。

 この寒いのにも関わらず、他にも行商は居た。

 しかし、どうすれば良いだろうか。

 ウォルターは準備に追われる一同を見ながら思案に思案を重ねていた。この冬はまだまだ続く。カランとベレを東まで送り届ける前に運よく儲けた金も尽きてしまう。

 しかし、売らなければ始まらない。

 ギャトレイ、カラン、ベレ、ファイアスパー、全員がこちらを見ている。

「商売だ」

 ウォルターは頷いた。

 ギャトレイ、カラン、それにファイアスパーが呼び子として声を上げる。ベレは平素の不愛想な顔をして立っていた。

 どうする、ウォルター?

 仲間達の様子を見ながらウォルターは思案する。

「何か悩みがあるのか?」

 そう尋ねて来たのはベレだった。

「いいや」

 ウォルターはこんな小さな娘に心配事をかけまいとかぶりを振ったが、気づけば全員がこちらを振り返っていた。

「狼牙、何かあるなら言ってくれ。俺達で力になれるかもしれない」

 ギャトレイが代表して言った。

 ウォルターはもはや隠し立てはできぬと思い、ダークエルフ姉妹にすまないと思いながら応じた。

「金の問題だ。もう野宿はできない時期だ。冬を越すなら宿を頼るしかないだろう。もともと大した品物じゃない。売り上げもそれだけで消えて行ってしまう。カランとベレを送り届ける途中で俺達は凍死する運命にあうだろう」

 他の店の威勢の良い声がどこか遠くに聞こえる。

「ウォルターさん、私たち」

 カランが言い出すのウォルターは制した。

「お前達は責任を持って俺達が送り届ける」

 一同は沈黙した。

 イーシャ。そっちに種を持って行けそうもない。

「だったら、少しこの辺りを見て回ろう。解決策があるかもしれないぜ」

 ギャトレイが持ち前の明るい口調で言った。

「狼牙、お前はカランさんとここで商売を頼む。売れなきゃどの道意味はない。俺はベレと行動する。ファイアスパーは一人でも大丈夫だな?」

「ああ、勿論。この窮状を解決させるために動くんだな?」

「その通り、さぁ、行こう」

 三人はウォルターが呼び止める前に駆け出して言った。

「ウォルターさん、ごめんなさい。あなたにも大事な使命があるというのに、私達のせいで」

 残るとカランが詫びた。

「気にするな。とりあえず、商売だ」

「そうですね」

 ウォルターとカランは声を上げた。

 人間、ブリー族、トロール、オーク、様々な客が現われ僅かな品物、金物と香木の袋を買って行く。カランの声と美貌の賜物だろう。

 呆気なく商売は終わった。

 銭の数を頭で数えながら、やはりどうしようもない壁にぶち当たってしまった思った。トロールの里で毛皮を捕られたのが響いたか。ギャトレイがブリー族の家族にあの剣を渡さなければ、ベレの脚を治すために大金を払わなければ、そんなことを今更ながら思い、悔いて行く。そんな自分が嫌だった。

「ウォルターさん」

 カランが心配そうに見ていた。

「悪い。とりあえず、出て行った三人の帰りを待とう。神様がいるなら何かしら吉報があるだろう」

 夕暮れ近くなって鷲になったファイアスパーが戻って来た。

「こちらは収穫無しだ。すまない」

 ファイアスパーが言った。

「良いんだ。あとはギャトレイとベレか」

 すると路地をベレが駆けて来た。

 ベレは息を乱しながら言った。

「家を」

 それだけ言い、三人は続きを待った。

「冬の間、家を貸してくれるという者がいた。ギャトレイが交渉してる」

「家を借りてここで一冬明かそうと言うわけか」

 ファイアスパーが言った。

 ウォルターは自分が頭が悪いことを自負しているが、それがどういうことなのか、思案していた。

「冬をここで過ごす?」

「そうだ。とりあえず、行ってみよう」

 ファイアスパーが促し、一同は馬車と共に出発した。

 夕暮れ、これから賑やかな夜が来る。人々の様子を見ながらウォルターは未だに思案していた。

 町の外れに二階建ての家があった。一帯のものと比べ、大きくも小さくもない。木造の家屋だ。

 ギャトレイが手を振った。

 一同が到着すると、中年の人間の男がいた。

「狼牙、じゃなかった、ウォルター、こちらの方が家を貸してくれると言うんだが」

「ウォルターだ。幾らになる?」

 男が金額を提示する。

「清潔に使ってくれると聴いて割り引いたが、どうだ?」

 男がウォルターに尋ねる。

 ウォルターは財布を見た。だが、食料はどうなる。そうだ、頭に引っかかっていたのは食べていけるかだ。

 するとファイアスパーが財布をウォルターに差し出した。

「使ってくれ。仲間だろ、利子は着けないでいつか返してくれればそれで良い」

 ファイアスパーの財布には金貨も入っていた。

 だが、と、ウォルターが言おうとしたときにファイアスパーは金を取り出し、男に差し出していた。

「確かに。それじゃあ、明日、来てくれ」

 家主の男は家の中へ入って行った。

「食料は」

「悩み過ぎだぞ狼牙。まずは宿に入ろう。そんで酒場で酒でも飲んで美味いものを食べて、ぐっすり寝よう。これはな、コフルっていう神様のありがたい名言だ。だから本日はこれまでだ。お開きお開き、御苦労様でした。コフル様、ばんざーい!」

 ギャトレイが陽気に言い、ファイアスパーが乗り気で笑う。

「カランさんもベレも、笑って笑って、いざ、出発!」

 ギャトレイが二人の背を押す。

「先に宿を見繕っておくぜ」

「分かった、私とウォルターは馬車を預けてこよう」

 ファイアスパーが応じる。

「だから、ウォルター、そんな思い詰めた顔は止めだ」

「悪いな、ファイアスパー」

「良いんだ」

「金の方は必ず返す」

「分かった。明日には明日の風が吹く。そう信じよう」

「ああ」

 ウォルターは御者席に乗り、ファイアスパーはその隣を歩んだ。

 悩みは尽きない。だが、そうだな、今日はこれまでだ。

 まるで祝福してくれるような月明かりを見上げウォルターは馬車を進ませたのだった。

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