魔戦士ウォルター18
問題は椅子やテーブルが無いことではなかった。
やはり食料であった。
秋の森には栗や野イチゴもあった。
またハーピィ達とリザードマン達の狩りも上手くいった。
それでもこれから来る冬を越せるかが、一同の課題であった。
玉座はあったが、ウォルターは近寄らなかった。綺麗に掃き清め、いつかイーシャが座ることを期待している。
その彼女を安心させたいがために食料の問題は自分達で解決してみせようと思っていた。
「川があった」
ショーン・ワイアットが使っていた井戸はあるが、森歩きに慣れているエルフのエスケリグは孤児院の子供達を連れて川を探していた。
「魚は捕れそうか?」
ウォルターが問うとエスケリグは頷いた。
「釣りは得意だが、悠長に釣っている場合でも無い。だから投網が欲しいところだな。大丈夫、なんとかする」
エスケリグは胸を叩いて言うと朗らかに笑って出て行った。
その次はリザードマンの長アックスと養父ドワーフのオルスターが現れた。
「どうした、二人揃って?」
「森を開墾しないかと思うのだが」
オルスターが言った。
実家でも裏に畑はあった。
「良いんじゃないか」
ウォルターが頷くと、今度はアックスが口を開いた。
「肉も取れるが、一緒に取れる毛皮をどうにか金に換えて、それで作物の種や苗を買おうと思うのだが、どうだ?」
「ワシとトリンが打った品物もな」
オルスターが続く。
「ん? それはつまり、交易するってことか?」
ウォルターは旅商人の姿を思い浮かべて尋ねた。
両者は頷いた。
「森の恵みもあるが、それだけでは来年、再来年と苦しくなってくるだろう。考えて置いてくれ」
アックスが言い、二人は各々の持ち場へ戻って行った。
「そういえば、鉄はどうやって入手するんだ、親父の奴」
だが、その疑問はすぐに解消された。
中庭にある炉に向かう途中、ショーン・ワイアットと行き会った。
「やぁ、王様代理。賑やかになって嬉しいよ」
「研究の方はどうなんだ?」
「まだまだ調べることだらけさ」
ショーン・ワイアットは自分の無精ひげをなぞった後、羊皮紙の束を抱え直して笑った。
「なぁ、ここで鉄は取れるのか?」
「近場に鉄鉱石が取れる洞窟がある。オルスター殿とトリン殿が採掘を始めようとしている」
「そうだったか。だが、製錬もするんだろう? この分だと親父達の方は時間が掛かりそうだな」
「何か始めようとしているようだな」
ショーン・ワイアットが人懐っこい笑みを崩さず尋ねてきた。
「毛皮と鉄の製品で交易をと思ってな。森を開墾したいんだが、許可は要るか?」
「いや、好きにやってくれて結構。ただ、私もここの住人だ。手伝えることがあれば言ってくれ」
「分かった」
ウォルターが頷くとショーン・ワイアットは去って行った。
次々にやることが出て来た。正直、嬉しかった。
「王様!」
声が聴こえ振り返ると、孤児院の子供達が立っていた。
「どうした?」
「俺達にも何か仕事を下さい」
「子供は遊ぶのが仕事みたいなもんだ。遊んで来い」
ウォルターはそう言ったが子供達は聞き入れなかった。
「駄目です、俺達だって住人だ」
頑とした態度にウォルターは頭を悩ませた。
オルスターは鉄鉱石の発掘に行くだろうし、リザードマン達もハーピィ達も狩りに行くだろう。同行させるのはまだ早い。
「お城の掃除はどうだ?」
知恵を絞ってウォルターが言うと、子供達は頷いた。
「よし、じゃあ、頑張れ」
ウォルターが言うと子供達は嬉しそうに駆けて行った。
ウォルターは今日一日城から出ていないことに気付き、草で覆われた中庭へ赴いた。
諸々が片付いたらここも綺麗に刈りたいところだな。
「その時は私も手伝うから」
不意に声がし、振り返ればローサがいた。
「お前、あんまり無理すんなよ。自分だけの身体じゃ無いんだぞ?」
ローサの膨れたお腹を見てウォルターが言うと彼女は目つきを鋭くして指を示した。
「ひょっとしてお兄ちゃん、今日、一度も、イーシャさんに会って無いんじゃない?」
そう指摘され、ウォルターも思い出した。
まさかイーシャを優先するのを忘れるとは、なってない。
「行ってくる」
ウォルターがそう応じるとローサは笑みいっぱいに頷いた。
回廊を行く。リザードマンもハーピィも出払っていて森の中の城は静かなものだった。
一階の入り口からすぐの部屋の前にハーピィが立っていた。
イーシャに何かあった時のための連絡役だ。
「ウォルター、来ないのかと思ったぞ」
ハーピィが言った。
「悪かった」
「イーシャ、ウォルターが来たぞ?」
ハーピィが部屋の扉を叩く。
「入ってくれ」
イーシャの声がした。
扉を開き、中へ入る。
「イーシャ、悪い、色々あって顔出すのが遅くなった」
言い訳がましいかもしれないと気付いたが既にそう述べていた。
「良いんだ。私の代理なのだ。それに殆ど初めからになる。リザードマンは森を開墾して畑にしたいと言っている」
「既に聞いていたんだな」
イーシャは人間で言う腕に相当する部分の両の翼で座って卵を抱き込んでいた。
「交易の話も出てる。どう思う?」
「皆が幸せになれるのなら良いことだと私は思う」
イーシャはそう言った。
交易の話はこれで決まったな。
「ウォルター、卵はあるが、ここは寂しい。ローサとメアリーが来てくれるが、やはりお前じゃ無いと私は駄目だ」
イーシャの真っ直ぐな視線にウォルターは頷いた。
「悪かった。頻繁に顔を出すようにする」
ウォルターは屈み込み、イーシャを優しく抱擁したのであった。
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