魔戦士ウォルター14
「サンダーストーム!」
大地が光り、稲妻が立ち上り敵勢を貫き、戦闘不能にする。
「でええいっ!」
ウォルターは駆け寄って来た一人を斧で一刀の下に切り下げた。
リザードマンが、エスケリグが、そして上空からは護衛に着くはずだったハーピィ達が鋭い爪で敵勢をかく乱していた。
意図時に道が開くように。
次の馬車が駆け出してきた。
御者は養父ドワーフのオルスターだった。
馬車に乗れなかったのだろう、リザードの民衆が後に続いて駆けていた。
「道を開けろ、風の刃よ!」
涼やかだが威厳のある声がし、進路を塞ごうとした敵兵が血煙を上げ真っ二つになって倒れた。
馬車とリザードマンは通過して行った。
ウォルターは魔術を使い、時には斧を振るった。
リザードの戦士達も傷を負いながら武器で敵勢を跳ね返している。
エスケリグも剣を振るい、風魔法を操っていた。
「ウォルター、聴け、三代目の馬車は空だ。お前達が乗れ!」
アックスが乱戦のさなか、声を上げる。
「我らリザードの戦士達がしんがりを務める」
「駄目だ、俺がしんがりだ!」
ウォルターは斧で敵を切り裂いた後に返事を返した。
だが、リザードマンの長の証である羽飾りが見えなかった。
「アックス! 聴いたな!? エクスプロージョン!」
一定方向に向けてウォルターは魔術を連発した。
意識が朦朧としてくる。
ウォルターはポーチから薬瓶を取り出し一気にあおった。
俺は魔術師だ!
甦る活力と共にウォルターは爆発魔法を幾つも撃ち込んだ。
「ウォルター、三代目の馬車が来る!」
エスケリグが言う。御者を見て驚いた。
「あれは」
「そうだ、俺の妻、メアリーだ」
「さぁ、皆さん、乗って! 道が開いているうちに!」
メアリーが声を上げる。
「ウォルター、乗れ!」
ハーピィ達が言った。
「俺は魔術師だ!」
「そんなことに拘っていたら本当に死ぬぞ! お前が乗らなければ我々は動かない。イーシャ殿との約束だ」
「そんな約束を」
「ウォルターさん、さぁ、早く」
メアリーが更に声を上げる。エスケリグが乗り、手を差し出す。
「アックス!」
「行け、ウォルター! きっと追いつく!」
「きっとだぞ!」
羽飾りが見えた。斧を振り上げて応じた。
ウォルターは馬車に飛び乗った。
「メアリー、頼む」
エスケリグが言うと、彼女の身重の妻は馬を走らせた。
戦場が遠ざかって行く。
リザードマンとハーピィが死兵となり懸命にしんがりを務めている。
「あ、道が!」
進路を人間達が塞ぐ。
「ウインドカッター!」
ウォルターは御者席へ乗り出し魔術を放った。
敵が斃れる。
しんがりの心配よりも今は目の前のことだけに集中せねば。それは分かっている。
リザードマンの負傷者が二人乗せられている。
ウォルターに向かって元気づけるように頷いてくれた。
お前達の長と仲間を見捨てた以上、俺は生き残らなければならない。
だが、俺は。
「良いか、そのまま突っ走れ!」
ウォルターはそう言うと御者席から飛び降りた。
「ウォルター!?」
エスケリグがこちらを見る。
「イーシャ達を頼む!」
ウォルターは四方八方に魔術を乱打した。
「ウォルター、何故来た!?」
ハーピィ達が尋ねて来た。
「知らん、ただ俺は気高いらしいからな!」
リザードマン達が合流した。
「ウォルター、ここまでだ。撤収するぞ!」
アックスはウォルターを責めることなくそう言った。
ウォルターは頷き、駆けた。
駆けながら薬瓶を飲み干し、魔術を目標も見ずに撃ち続けた。
そうしていつの間にか、静かな丘陵の下へと着いた。
「ハーピィ族に負傷者は?」
「負傷者はいるが、軽傷だ。みんな無事だ。リザードマン、お前達こそどうなのだ?」
「おかげで誰も欠けることは無かった」
そんな会話が脳裏を過ぎり、ウォルターは我に返った。
息を喘がせ、リザードマンとハーピィを見る。
「ウォルター、また助けられたな」
リザードマンの長、アックスが言った。
リザードマン達は血みどろだった。
「全員無事なんだな?」
「ああ」
ウォルターの問いにアックスが応じた瞬間、ウォルターは体の力が抜け崩れ落ちた。
「おい、大丈夫か、ウォルター?」
「ああ、腰が抜けた」
ウォルターは呆然としながらそう応じていた。
「どれ」
アックスがウォルターを背中にしょい上げた。
「行こうか、ウォルター。皆の待っている新しい地へ」
「行こう、ウォルター。イーシャが待ってる」
アックスとハーピィ達が言い、ウォルターは頷いた。その目から涙が零れ落ちていた。
欠けることなくみんながいる。そのことがとても嬉しかったのだった。
程なくして、こちらの到着を待っている一同に追いつくことができた。
「お兄ちゃん!」
ローサが声を上げこちらに向かって手を振る。
既にアックスの背から下りていたウォルターは、同じく徒歩の人となっていた。
幌馬車から赤い影が過ぎり、ウォルターを抱きしめた。
「ウォルター、良かった!」
「イーシャ、心配かけたな。だが、誰も欠けてはいない。新しい場所でまたやり直そう」
「そうだな、気高きウォルター。お前はもうアッシュじゃない。みんなお前の仲間だ」
「ああ。その通りだ」
ウォルターはイーシャを抱き締め返す。
まばらに湧き起こった拍手が、次第に大きなものとなり、ここにいる全員を祝福したのであった。
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