魔戦士ウォルター5

 人間ほど戦争好きな奴はいない。

 ウォルターは己が欲深いことを知っている。

 だから稼ぐ。

 人間の里と里同士が水源を求めて争い合っている。

 意気揚々出て来たウォルター側の里の者達。

 戦いは国境、いや、縄張り付近の原野で起こった。

 分け合えば良いものを。

 里と里、民衆同士がぶつかり合う。

 双方とも士気が高いが、共通して戦いは素人だった。

 得物をぶつけ合うだけぶつけ合い、息を乱す。威勢が良いのはお互い最初だけだった。

 これではお遊戯だ。

 ウォルターは後方で様子を見ながらため息を吐いた。

「傭兵の先生、戦況は拮抗している。出番ですぜ!」

 民衆の一人が額に汗を掻きながら息を弾ませ駆け寄ってきた。

 雇われた以上はやるしかないか。

 ウォルターは進み出る。

「へへへっ、これでこの戦は勝ったも同然だ!」

 ウォルターの出現にこちら側の民衆達は期待と歓喜の様子を見せて後方に下がって行く。

 俺一人か。

 ウォルターは再び溜息を吐いた。

 厚手の革の鎧を身に着け、深い青色の外套に身を包んだ、俺は敵にとっては異形だろう。

「降伏しろ」

 ウォルターは呼びかけた。

「何を馬鹿なことを! 敵はたった一人だ、やっちまえ!」

 敵対する里の者達、つまり大した武装もしてない民兵が、長槍に剣に、いっちょ前に立派な武器だけは持った者達が、ウォルターをやらんと攻めてくる。

「燃えて吹き飛べ!」

 ウォルターはエクスプロージョンを放った。

 差し出した左手の向こうで爆炎が舞上がり、多くの影が焼け焦げた肉片となって散らばった。

「魔術師だ!」

 生き残りが叫ぶ。

「降伏しろ」

 ウォルターは尚も迫ったが、相手の度肝を抜いたのは一瞬だけだった。すぐに仲間をやられた怒りを燃やし、攻めかかって来る。

 こういう連中を魔術でまとめて斃すのが定石だろう。

 だが、こいつらは素人。傭兵とは違う。

 ウォルターは長柄の手斧をベルトから抜いた。

「うおおおっ!」

 斬りかかってくる一人を斧で一刀両断にする。

 血煙の向こうからまだまだ数に安心している民兵達が攻めてきている。

 手加減して傷を負ったんじゃ話しにならない。

 ウォルターは本気で敵とぶつかり合った。

 あえて戦士としての格の違いを見せつけた。

 旋回する斧の刃は次々血の花と悲鳴を巻き散らす。

 二十人ほど圧倒的に斬ったところで敵の士気が削がれるのを感じた。

「化け物だ!」

 ウォルターをそう呼び、敵の動きは止まった。

「よーし、今だ!」

 後方に下がっていたこちらの民兵達が駆け付け突撃して行く。

 士気と削がれた数だけ敵の不利だった。

 次々、素人戦士達の手により、同じ素人戦士が討たれる。

「退却! 退却だ!」

「逃がすものか、先生!」

 雇われている以上、やるしかない。銭のためだ。

 ウォルターは頭上高く斧を掲げた。

「撃たれよ!」

 敵勢の頭上から幾つもの稲妻が飛来し、次々貫き絶命させる。

 立っているものは僅かだった。そいつらは慌てて逃げ出した。

 歓声が上がる。

「勝利だ! 俺達の勝ちだ!」

 声と共にバラバラに勝鬨が上がる。

「俺の出番は終わりだな。報酬を貰おうか」

 ウォルターが言うと、偶然近くにいた総大将、里長の息子が応じた。

「そらっ、報酬だ、雇われ兵!」

 投げつけられた巾着袋を受け取り中を見て、ウォルターは溜息を吐いた。

「約束した報酬よりもずいぶん、少ないじゃないか」

「そう言うな、こんな貧しい里でそれだけもらえりゃ、アンタ、運が良い方だぜ」

 奴隷のようにこき使い、あわよくば戦死でもしてくれればと思ったのだろう。

 ウォルターの腹は決まった。



 二



「攻め込め!」

「応戦しろ!」

 敵対する里へ乗り込んだ、元ウォルターの雇い主達は勝ちに酔っていた。

 老人を斬り、若い女を連れ去ろうとする。

 陰でウォルターは、長い髪を引っ張られ、抵抗虚しく引きずられて行く若い女を見ていた。

 これから待っているのは奴隷となる前の過酷な洗礼だろう。

 人間ほど醜いものはいない。

「おい」

「ん?」

 振り返った勝利者の頭蓋に斧を振り下ろしかち割る。

「あ、ああ、ありがとうございます!」

 女が礼を述べた。

 ウォルターは里中を歩き回り、殺戮と略奪を働く勝利者達を始末して行った。

「おい、何か静かじゃねぇか?」

 勝利者の民兵が仲間に尋ねるのをウォルターは陰から見ていた。

「そうだな。女の悲鳴が聴こえなくなった」

 その時だった。

「男衆の仇!」

 生き残りの女、少年、老人が武器を持って集結した。

 予想を上回る数と、憤怒の気に略奪を働いていた者達が手を止めた。一人が状況に気付いたようだ。

「おい、他の連中はどうなったんだ?」

「まだお楽しみの最中かもしれない」

「じゃあ、あれは何だ?」

 怒りに燃える女、少年、老人らを見て略奪者は顔を見合わせ色を失った。

「それ、仇討じゃあ! 殺せえっ!」

「うわああっ!」

 思わぬ反撃に遭い、略奪者達は、次々討たれた。

 双方ともこれで男手は失った。

 その後、この両方の里がどのような道を辿るかは分からない。

 しばらくは混沌が支配するだろう。

 だが、気は晴れた。

 ウォルターは逆襲となった凄惨な殺戮劇を後にして里から姿を消したのだった。

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