第17話 ぶっ殺し確定ですけど

「おはようございます、せんぱい♪」

「おはよう雪乃」


今日は休日ということもあり、雪乃とデートをする約束をした。

バーベキューの一件以来雪乃はとても大人しくなったように感じる。


相変わらず俺が女子と会話しているとイライラを隠し切れず鉛筆を折ったりしていたが、それでも俺が察して雪乃の方にいくと機嫌が戻る。

それにあのノートも見ることはなくなった。

何より雪乃が俺に真っすぐに向けてくれる気持ちを今では嬉しいと思えるようになってきた。


「今日はせっかくだし外食しようか。もちろん雪乃の手料理の方がいいけどたまには楽してもらいたいから」

「ふふ、せんぱいは優しいですね♪今日は楽しみです!」


今こうして雪乃と同棲しながら高校生活を送っていて思うが、一体何に対して俺は拗ねていたのだろうか。


別に見た目は人間なんだしこうして雪乃とゆっくり暮らしていけば楽しい人生になるんじゃないかと今なら本心から思える。


朝食を食べてゆっくりしたあと、昼前に二人で街に出かけた。


「せんぱい、ゲームセンター行きたいです♪」

「え、いいけど何かしたいゲームとかあるの?」

「UFOキャッチャーしたいんです♪かわいい人形がほしくて!」

「なるほどね、でも取れるかな…」

「せんぱいにとってほしいな♪」


俺の腕にしがみついて甘えてくる雪乃を通りすがりの男たちが見ていたのがわかった。

こんなに可愛い彼女を連れて休日デートを楽しんでいる俺たちはきっと世間から見れば羨ましい部類に入るだろう。

この前までは、そんないいもんではないぞと言いたかったが今は雪乃を隣に置いている自分が少し誇らしくある。


そんな優越感に浸りながらゲームセンターに入り、雪乃は可愛い人形目当てでUFOキャッチャーのコーナーへ走っていった。


「せんぱーい、あのクマさん可愛い♪」

「でっかいなー…ちょっと店員さんに位置をずらしてもらおうかな?」


店員を呼んでから少しだけ取りやすそうな位置に人形を動かしてもらい、お金を入れてクレーンを動かした。


「ここかな?ええと…」

「あ、いい感じです!いけー!」

「あー、惜しいなー!もう一回かな」

「何回かやればとれそうですね!」


結局そんな感じでワイワイしながら、取れるまでに2千円かかったが無事クマの人形を獲得することができた。


「わーい♪せんぱい、これ帰ったらベッドのところに置きましょ!」

「一回置きに帰るか?さすがに大きいなぁ」

「いいです、このまま持ってたいので♪」


すっかり上機嫌な雪乃とデートを楽しんだ。

昼飯は二人でハンバーガーを買ってからブラブラした。


そして公園で一息つくことにしたのだが、その時にある親子連れが足を止めた。

母親と歩いている小学生くらいの女の子がこちらを見てくる。


どこかで見たことがあるようなと考えていたその時、女の子が急に泣き出した。


「どうしたの、何か怖いものでもあったの?」

「ば、化物…怖いよ!」


女の子が俺の方を指さしながら怯えている。

そして思い出した…俺が前にトラックにはねられかけているのを助けた子だ…


「こら、失礼なことを言わないの!ごめんなさいね、この子ったら事故にあいかけたことがあって、その日からちょっと様子がおかしくて…」


怯えるその子を見ながら、しばらく忘れていた感覚を思い出した…


そうだ、俺は人間ではない…

ここ一ヶ月くらい雪乃との生活に慣れて、学校にも通い出して人間らしいことをしていたから忘れていた、いや忘れた気になっていた…


でも、こんな子にトラウマを植え付けてしまったのは間違いなく俺だ…


「せんぱい、大丈夫ですか?顔色悪いですよ…」

「い、いやいいんだ…」


途端に自分のことが怖くなってきた。

やはり俺に普通の生活なんて無理だと思ったその時、雪乃が子供の方へ向かっていった。

まずい、子供に何かするつもりじゃ…


しかしこれ以上女の子を怖がらせてもいけないからと、俺はそのまま立って待つことにした。

そしてその不安はいい形で裏切られた。


「あのね、このお兄ちゃんはいい人なんだよ?化け物じゃないよ?」

「で、でもこの人ウネウネってなってなんか気持ち悪くって…」

「ふふ、せんぱいは身体が頑丈なんだよ?だから怪我しても大丈夫なだけだから、怖がらなくていいよ?見て、普通のお兄さんでしょ?」

「う、うん…でも血がね…」

「でも君を助けてくれたんでしょ?だったらむしろお礼言わないといけないよ。ね、お姉ちゃんなんだから」

「うん…わかった…」

「ふふ、いい子だね♪これあげる」

「いいの?お人形さん…」

「うん、いいよ!そのかわりお姉ちゃんとお約束ね」

「うん!」


雪乃が女の子に話をしていた。

その時の雪乃の顔は見たことないほどに穏やかで、俺は思わず見惚れていた。

こんな顔できるんだ…


そして雪乃が話し終えると親子が俺のところにやってきた。


「すみません、あの時助けていただいた方とも知らずに…本当にありがとうございます」

「お兄ちゃん…ごめんなさい。あと…ありがとう」

「い、いえ…たまたま僕がそこにいただけなので…」

「それに娘が大変失礼しました…」

「そ、そんな僕の方こそ…」


雪乃がフォローしてくれたことで親子が俺に謝ってきてくれた…

確かに女の子をかばった話はしたが、よくこの子がそうだとわかったな…


深々と頭を下げて帰っていく親子を見送ったあと雪乃が嬉しそうに俺に話しかけてきた。


「ね、話し合えばわかってくれるんですよ♪せんぱいは優しくてかっこいいんですから♪」

「雪乃…ありがとうな、俺もちょっと気が楽になったよ…」

「ふふ、私はせんぱいのこと褒めただけですよ?」

「雪乃…」


俺は思わず雪乃を抱きしめてしまった。


あの女の子からの拒絶もずっと心に引っかかっていた。

それがお礼を言われるようになるなんて…

それに雪乃が俺のことをあんな風に思ってくれていたのだとわかり、それも無性に嬉しかった。

色んな想いが込み上げてきて雪乃を抱き寄せた。


「せんぱい…私はせんぱいの味方です。でも、優しいせんぱいをあの子が理解してくれてよかったです」

「全部雪乃のおかげだよ…俺、本当に嬉しかった…」

「せんぱい…」


しばらく沈黙が続いた。


そして雪乃と手を繋ぎまた歩きだした。


「せんぱい、夕食の買い物いきましょ♪」

「そうだな、今日は肉食べたいな」

「はい、そうしましょ♪」


俺は幸せだ。

こんな彼女がいて俺は本当に…


「でもあの子に雪乃が話しかけに行った時、ちょっとドキッとしたよ。雪乃って子供に優しいんだな」

「え、私子供苦手ですよ?それにあの子が聞き分け悪いようだと母親ごとやるつもりでしたから」

「え…」

「そりゃそうですよ?せんぱいのこと化け物扱いした時点で本来ならぶっ殺し確定ですけど子供なんで我慢しただけですよ?」


雪乃が嬉しそな笑みを浮かべている。


よく見るとその左手にはなぜかニッパーが握られていた。

どこから出したんだ…もしかして気づかなかったけどずっと持ってた?


「ゆ、雪乃…子供の言うことなんだからそんな怒らなくても…それにお人形もあげてたじゃないか…」

「じゃあ親のしつけの悪さということで母親から粛正したらよかったですかね?ちなみにあのお人形はせんぱいから貰った大切なものなのにあの子の手に当たって汚れたからあげただけです取り直してください」

「も、もうちょっと平和的な、それこそ話し合いはできないかな…」

「だからしましたよ?でもあの二人はリストには加えてますから」 


久しぶりに狂気の宿る目をした雪乃がいた…

話題を逸らそう…


「ゆ、雪乃…この後どこいく?」

「あの親子を尾行します」

「も、もう誤解は解けたんだから…」

「いいえ、大好きなものを傷つけられた恨みは大きいですよ?今度あの親子見かけたら殺しますね?」

「な、なんでそこまでするんだよ…」

「だって、せっかくせんぱいが私のこと好きって言ってくれたから…だからせんぱいは私が守ります」

「い、いやそれは…」

「ダメ…ですか?」


目を潤ませる雪乃を見て、思わずキュンとしてしまった。

でも俺、雪乃のこと好きって言ったっけ…?


「で、でも雪乃のおかげであんな風に言ってもらえて俺も本当に嬉しいから…だからあの子はそっとしておいてあげよ?」

「あの子、多分3年もすれば美人になります」

「は?」

「そして命の恩人のせんぱいと運命の再会、なんて可能性も考えたら若い芽は摘んでおかないといけませんからね」


じゃあなんであの子にあんな話をしたのだという疑問を抱いたが、おそらくそれは雪乃の中で俺を庇うが最上位命題だったのだろう。

そしてその目的を達成した後でやはりあの子は危険だと言う感情が追いかけてきたのか…


「か、考えすぎだよ…」

「今でもせんぱいのこと考えすぎて頭がいっぱいですしいっぱいにしたいので、余計なことを考えさせる要因は排除したいです」


せっかく雪乃といい感じだったのに…

またスイッチが入ってしまった…


「と、とにかく今日はせっかくのデートなんだから…」

「…わかりました、じゃあまた人形とりにいきましょ♪」

「そ、そうだな…」


ギリ持ち堪えたか?


「あ、そうだ。あのゲームセンターの店員も馴れ馴れしいから名前見ておかないとですね」


時刻は午後3時過ぎ

まだ今日という日は続く。


俺はまた雪乃のことがわからなくなっていた…

あの子に話していた時の雪乃と今の雪乃、どっちが本当なんだ?

いや、どちらも雪乃なんだろうけど彼女という人間を知れば知るほど迷宮に迷い込んでいく感覚になる…


ただ一つわかったことがある。


外出はとても危険なのだと…







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