第16話 月が綺麗ですね
「雪乃ー、なにしてんの?片付け終わったらみんなでゲームしよーよ!」
「あ、うん!ちょっとせんぱいとお話してるのー」
「ほんと仲良しねぇー、じゃあ先に行くよー」
「はーい」
須藤さんの家の屋上で雪乃と二人きりになった。
今はちょうど季節もよくこのままここで寝ても良さそうなほどにいい気温である。
天気は快晴、今週はずっと晴れで今日は星が綺麗だ。
「ね、せんぱい。みんなが帰る時にここから落ちてみますか?」
「そ、そんなことしてなんの意味があるんだよ…」
「知ってました?飛び降り自殺って結構下にいる人を巻き込むケース多いんですよ?」
「そ、そうなのか…雪乃はなんでもよく知ってるな、あはは…」
「それとももっかいバーベキューします?二人で」
「い、いえもうお腹いっぱいです…」
いつもより明らかに怒っている…
多分一番の原因は俺と須藤さんのアイコンタクトだ。
別に空気読めるやつなら誰でもそういうことすると思うのだが、それを雪乃に話しても仕方ないし…
もう話題を逸らすくらいしか思いつかない…
「あー、月が綺麗だなー」
「え…」
「い、いや今日は月が綺麗だなって…」
「…死んでもいいです」
「はい?」
「私、死んでもいいです♪」
な、何故か知らないが急に雪乃の目に輝きが戻った…
ただ死んでもいいという意味はわからんけど…
「せんぱい、私せんぱいがそんなに素敵な人とは思ってなかったです♪知らないせんぱいの一面を見れて私とっても幸せです♪」
「え、いやよくわからんけど…まぁ今日はほんとに月が綺麗だもんなぁ、満月で」
「うんうん、綺麗ですね♪ずっと一緒に見ていたいです♪」
なんだ、雪乃は月とか星とかを見るのが好きなのか?
天体好きな女子ってたまにいるみたいだけどまさか雪乃がそんなロマンチストとはな…
とにかく今がチャンスであることに違いはない。
「雪乃、今日は遅くなったしみんなに挨拶して帰ろっか」
「うん、帰ります♪せんぱい大好き♡」
月夜の明かりに照らされて、人の家の屋上ではあるが少しロマンチックなキスをされた。
そしてキスを終えて離れる時の雪乃の顔は、暗がりというのもあってだろうがとても色っぽかった。
階段を降りて部屋で盛り上がるみんなに挨拶をして先に帰ることになった。
その時、須藤さんと嬉しそうに話す雪乃が印象的ではあった。
本当に俺が須藤さんと仲良くしたらこんなに笑い合える友人でも容赦しないのだろうか…気にはなるが一生知らなくていい、知らずに一生を終えるべきことである…
「せんぱい、今日は楽しかったですね♪」
「う、うん…そうだな楽しかったよ」
「今日は本当に最高の一日でした、ありがとうございますせんぱい♪」
「い、いやなにもしてないけど…」
一体何がどうなってるんだ…
狐につままれたような気分で家に帰ると、雪乃はルンルンで風呂を沸かし勝手に入って鼻歌を歌っていた…
理由はわからないが、とにかく雪乃は月が好きなのかと思い、雪乃の入浴中に月と検索してみた。
すると自動検索ワードに『月が綺麗 意味』と出てきた。
これは?と思い検索してみると、先人の気を利かせたというか洒落た行為を激しく恨むことになった。
月が綺麗ですね
この言葉は夏目漱石がI LOVE YOUを訳す時に月が綺麗ですねと表現したことから、今では告白の際に用いられるなんとも回りくどい表現なのだという。
ちなみにそれに対する返しは、OKの場合「死んでもいいわ」と返すのが通例だそうだ…
断る場合は「月が見えません」などの表現があるとか。
余談だが夕日が綺麗ですね、は『あなたの気持ちを教えてほしい』という意味が隠されているそうだ…
いや何勝手に意味つけちゃってくれてるんだよ…
知らないうちに俺が雪乃に告白したことになってるじゃないか…
そりゃ機嫌もよくなるわけだ。
雪乃は賢いし教養もある。
だからこういうことも当然知っていたのだろう。
ていうか結構常識めいた書き方をしているが、これってそんなに一般的に使われてる言葉なのか?
今更意味を知らなかったなどと言い訳をすることもできないし、どうしたらいいんだ…
「せんぱーい、あがりましたよ♪」
雪乃が風呂から出てきた…
「な、なぁ雪乃…」
「ふふ、今日はせんぱいが私のことをきちんと思ってくれてるってわかってすごく幸せです!」
風呂あがりのいい匂いを纏わせた雪乃が俺の隣に座った。
「雪乃…なんで俺のことをそんなに好きでいてくれるんだ?正直俺は大したことできてないし、きっかけだって…」
「そんなのに理由はありませんよ♪あの時助けてくれたのも当然嬉しかったですけど、いわゆる一目惚れです♪でも私は…自分に自信がないんです…だから他の人とけんぱいが仲良くしてると不安で…」
初めて雪乃が弱音を吐くのを見た。
演技、ではなさそうだ…
「ゆ、雪乃は可愛いし十分魅力的だと思うよ?だからそんなに心配しなくても…」
「でもせんぱいはもっと魅力的だから…私ずっと不安なんです…他の人と仲良くしてるとみんながせんぱいを好きになって、それで…」
「そ、そんなことないよ…」
「あるの!せんぱいを他の人にとられるなんて考えただけで死にたくなるの…」
雪乃は嫉妬の深さや暴力的な部分もあるが、可愛いしマメで尽くしてくれるし料理も上手だし、女の子として申し分ない子だと思う。
それに今の俺は不死の怪異。だから誰かに好きだと言ってもらえることを素直に喜んで幸せと思うほうが自然だし自分の身の丈にあっているのではと思う…
「雪乃、いつもありがとう。俺なんかをそんなに思ってくれて…俺も心配かけないようにするよ」
「うん、せんぱい…大好き♡」
雪乃とキスをした。
別に今更なことなはずなのに、今日は何故か緊張していた。
「そ、そろそろ風呂入ってくるよ!」
「うん、せんぱいがあがったらゲームしたいな」
「ああ、早くでるよ」
俺は風呂に入った。
いつもなら、このままずっと風呂に入っていたいと思っているが、今日は言葉通り早くあがって雪乃と話したい。
雪乃を素直に受け入れられたらきっと俺は幸せ、なのだと思う…
◆◇
(ふふ、せんぱいってほんとに純粋♪でもこれでせんぱいは私に夢中になってくれるかなー?お風呂から出たらもっと甘えて最後の一押ししておこっと♪)
そんな雪乃の思惑など知る由もなく不死川は風呂から出る。
髪を拭きながらリビングに戻る不死川はベッドに座って待つ雪乃の方を見る。
微笑む雪乃を見て不死川も顔が綻ぶ。
そして寄り添いながら仲睦まじくゲームをする。
不死川の目は明るい。ゲームをしながら嬉しそうに雪乃を見る。
雪乃も視線を向けて微笑む。
そして不死川がテレビに目を向けると、その横で雪乃はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
そんな時間は夜遅くまで続いた。
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