第15話 見てましたよね?

「せんぱい、せっかくお邪魔するんだしお土産買ってからいきましょ♪」

「お、そうだな。女子は何が好きなんだろ?やっぱりお洒落なお菓子かな?」

「誰狙いですか?別に気の利いたものを買おうとは言ってませんよ?」

「い、いやどうせなら喜んでもらえるもののほうが…」

「お土産なんか何もらっても同じですよ。それよりマッキーの好感度上げて何を企んでるのか知りたいです」

「た、企みなんてあるわけないだろ…」

「正直マッキーってせんぱいのタイプだと思うんですよね?いい友達だけどそろそろ潮時かなぁ」

「や、やめとけよ…高校の時の友人は一生の付き合いになる子も多いだろうし大事にしようよ…」

「私は一生一緒にいるのはせんぱいだけでいいですけど、せんぱいはいっぱい女の子とお付き合いしたいんですね」

「な、なんでそうなるんだ…」


雪乃の目がまた曇っている…

いつかこの病的な愛は冷めるのだろうか…


「まぁせっかくのバーベキューなので特別に許してあげますね!」

「そ、それはよかった…」

「あくまで特別ですよ?」

「わ、わかってるって…」



結局駅前に売っているなんでもない菓子折を買ってから須藤さんの家に向かった。


学校からだと歩いて15分ほどのところにある須藤さんの家は大きかった。

コンクリート造りの家の横には何台も車が入りそうなガレージがあり、敷地だけで見れば普通の家の3倍はある広さだった。


「さすがにでかいな…」

「マッキーのお父さんは有名なIT企業の社長さんなんですよ♪」

「へぇ…そうなんだな」

「なのに社会勉強とかでアルバイトもしてて本当にマッキーはすごいんですよせんぱい♪」

「へぇ…」


どう反応したらいいんだ…

すごいと称えたら過敏に反応するだろうし、かと言って否定する材料もない…


ていうかそこまで褒めてる割にさっきお前潮時とか言ってたよね?

どういうことだよ…


「お邪魔しまーす」


「あ、雪乃!それに彼氏さんも!早速みんな準備してるから上がって上がって!」


須藤さんが出迎えてくれた。

私服姿もいいなと思った自分がいたが、もし雪乃に心を読まれたらこの家が凄惨な事件現場になりかねない


とりあえず一息、とはならない。


「女の靴が4足、男子は1足…何人か削ろうかな」

「削る!?雪乃、頼むから人の家では自粛しようよ…」

「世の中全員姫ちゃんだったら楽なのに」

「いやそれは姫川さんに失礼じゃ…」


何故か知らないが雪乃の中で姫川さんは無害認定されている。

正直雪乃の言葉は失礼な意味だとわかっているが、世の中全員姫川さんなら俺も楽だろうとは思う…


案内されて屋上に上がると、男子は江川一人で後は女子だった。


上田さん、水原さん、姫川さんといういつものメンツだが、俺はなぜか彼女たちと距離が縮まった気がしない。もちろんそんなことを望んでもいないが、関わる以上は普通に接したいのだが…


「あ、不死川君!もうお肉焼いてるよ、食べる?」

「お疲れ様、姫川さん。ありがとう」


姫川さんもここ数日の話だが随分明るくなった。

やはり北条たちが怖かっただけで元々は気さくでいい子なのだろう。

さらに言えば雪乃から無害とされている彼女なら話していても問題はないし、案外このことは仲良くなれるかもしれない。


「姫ちゃん、私もちょうだい!」

「雪乃ちゃんのもあるよ、はいどうぞ!」

「おいしそー、やっぱり炭はしっかり焼けるね!」


ただ肉の焼き加減の話をしているだけなのだが俺は過剰に反応してしまう。

ないとは思う、思うのだが万が一このお肉たちと一緒に焼かれるなんて事態になったらどうしようという恐怖と闘いながら肉の味をかみしめた。


「せんぱい、おいしいですね♪」

「うん、いいお肉だな。みんなでワイワイするのもたまにはいいよな」

「私と二人きりだと息が詰まりますか?」

「い、いやそういうことじゃないだろ…」

「でも遠回しに、私とずっといると疲れるからたまには息抜きさせてくれって聞こえるんですけど私の考えすぎですかね?」

「か、考えすぎだよ…」


まずい、なんか顔に出てたか…?


「あ、そういえば焼いたトングで耳たぶを掴むとすごく腫れるらしいですよ?」

「いやそれはただの火傷だろ…」


雪乃がトングをカチカチしている…

いつものように変なスイッチが入りかけた雪乃に江川と水原さんが話しかけてきた。


「雪乃ー、たまには不死川君以外とも話そうよー!四六時中一緒なんだからさ」

「えー、だって私はせんぱいと24時間一緒にいたいんだもん♪」

「一途だよね月詠さんって。でも不死川君もべったりだと疲れるんじゃないか?なんてね」


俺は変な汗をかいた。

二人の意見はごもっともだしむしろ俺だってそうしたい。

しかしだ、そんなことを言ったら最後、俺はこの網の上で焼肉になりかねない…

もっと言えばお前らだってそうなる可能性があるんだぞと言いたい、だが言えない…

とりあえず雪乃をこっちに連れ戻さないと。


「ゆ、雪乃?こっちで一緒に食べようよ…」

「いいです、たまには離れた方がいいみたいなんで一人で食べます」


明らかに怒っている…

まじで二人ともいらんことしてくれたな…


「い、いや俺は雪乃と食べたいんだよ…それに誰かと一緒に食べる方がおいしいだろ?」

「じゃあ誰でもいいみたいなんで有象無象と戯れてください」

「有象無象って…」


しかし完全に拗ねてしまった雪乃は一人で端の方に行き黙々と肉を食べていた。


近づくなオーラがすごいので様子を見ていると、なぜか須藤さんが雪乃に声をかけていた。

あの雰囲気の雪乃に話しかけるなんてどういう神経してるんだと思ったが、なぜか嬉しそうな表情を浮かべて雪乃が戻ってきた。


「ふふ、怒っちゃってすみませんせんぱい♪私、勘違いしてました。」

「え、勘違い?」

「ええ、せんぱいは私のことを気遣ってそういうことを言ってくれてたんだってマッキーに言われて…だからせんぱいが私のことを気にしてくれてたんだって思うと急に嬉しくなってきちゃいました♪」

「わ、わかってくれたんならよかったよ…」


ちらっと須藤さんの方を見ると、向こうも目で合図してきた。

この雪乃を転がすなんて…須藤さん、君はすごいよ…


機嫌を回復させた雪乃とみんなでしばらくバーベキューを楽しんだ。


何気ない会話の流れでバーベキューの片付けの方法について誰かが質問し、雪乃が徐に携帯をとり検索を始めた。

ただ横にいたという理由で彼女が検索をかける瞬間を見てしまったのだが、雪乃の検索履歴が目に入り恐怖した。


自殺に見せかけた殺害方法

事故に見せかけた殺害方法

死体の処理方法


という項目が、一瞬だが見えてしまった…


「せんぱい、炭は自然に火が消えるまで置いといた方がいいみたいですよ?」

「え、あ、ああ…」

「もう、話聞いてなかったでしょー?」

「い、いや聞いてたよ…片付けしないとだな、はは…」


あの検索履歴はなんだ…?あれのせいで頭が整理できない…

いや、ただ興味本位で調べただけだよきっと…

だって須藤さんのおかげで機嫌もよくなってるし…


「随分マッキーと仲良くなりましたね?アイコンタクトまで取るなんてもうそれは浮気ですよ、せんぱい?」


急に雪乃が呟いた…


「え、なんのことだよ…」

「せんぱいがしらを切るならいいです。マッキーに聞くんで。せっかく誤魔化されてあげたのに何目と目で通じ合ってるんですか?殺しても足りませんよ?」

「ち、違う…たまたま目が合っただけだよ…」

「相手の方を見てないと目は合わないんですよ?せんぱいがずっとマッキーを見てたってことですか?それならそれで問題ですねー」

「ち、違う…」


全然機嫌はよくなかった…


片付けをしながらはしゃぐみんなの気配を感じながらも、雪乃から目が離せない…

頼むからみんな避難してくれと叫びたいほどだが、雪乃のプレッシャーで言葉がでない…

とりあえずなんとかしないと…


「雪乃、誤解させるようなことは二度としないから今日は楽しく帰ろ?な、せっかくみんが誘ってくれたんだし…」

「言っておきますけどマッキーは処女じゃないですからね?そんなビッチと目で会話するなんてそれはもう浮気ですよ?」

「い、いやお前も処女じゃないだろ…」

「ええ、せんぱいに優しく奪ってもらいましたから。でもせんぱいとしかしませんよ、これからもずっとそのつもりですけど」


雪乃の機嫌が戻らない。


パチパチと炭のはじける音が響く。


あれ、下に降りる階段ってあんなに遠くにあったっけ…

























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