第14話 なんでも知ってますよ?

羽田さんは北条のことが好きで慕っていたそうだ。

そして雪乃に脅されて早退した日に会いにいくと既に北条は今の状態になっていて、それを見て愕然としたという。


早退直前に雪乃が追いかけて行ったことを思い出し、勝手に雪乃のせいだと決めつけて当て付けをしていたそうだ。

まぁ正解だし、結果その推理力が仇となったわけだが…


「おっはよー♪」

「あ、おはよう雪乃!それに不死川くんも!」

「ああ、おはよう…」


雪乃と教室に入った時クラスの女子が挨拶をしてきたが、俺は北条と羽田さんを探した。


北条は雪乃の姿を見て怯えている…

そして羽田さんは…まだきていないのか?

二人の様子を確認していると北条と目が合ってしまった…


「あ、月詠さんに不死川さん!おはようございます!」

「お、おはよう北条…でも同級生なんだからそんなかしこまらなくても…」

「なに勝手に話しかけてんのかな?死ぬ?」

「い、いえすみません月詠さん!」

「やりづらいな…」


支配された北条に親近感を持ってしまうのは何故だろう…


「せんぱい、あんなの無視してていいですよ!」

「もう許してあげようよ…十分反省してる気がするし…」

「ダメです。ああいう輩は根っこまで枯らさないと雑草みたいに生えてきますからね!あと、せんぱいの浮気心もですけど」

「お、俺!?俺はなんもしないよ…」

「そう言う人ほど一度火がつくと女遊びにハマるんですよ?だからその火種は早いうちに消しておかないといけませんからね」

「だ、大丈夫だよ…」


北条の顔を見たせいか朝から不機嫌だな…


しかしクラスのいじめっこを制圧したのならしばらくは平和な日常を送れそうだ。

兎にも角にも雪乃次第というところはあるが…


「せんぱい、今日はせんぱいの好きなハンバーグ弁当にしてますよ♪」

「楽しみだな。いつもありがとう雪乃。」

「えへへ、せんぱいがそう言ってくれるだけで私とろけちゃいそうです♪」


雪乃が幸せそうだと俺も幸せな気分になる。

それは俺が相手の幸福を第一に考えられる優しい人間だからとかではない。

自分第一に考えた結果、そう思うのである。


しかしその幸せを乱すかのように遅れて羽田さんが登校してきた。


「お、おはようございます雪乃さん!」

「おはよう、早く帰れば?」

「え、今きたところなのに…」

「だから?」

「な、なんでもないです…」

「そ、ならよかった♪じゃあバイバイ」

「はい、失礼します!」


羽田さんは即下校した…


「いやいや雪乃、これじゃいじめと変わらないだろ…」

「だってー、有紗さん約束守ってなかったからーつい」

「約束って?」

「まずあの化粧がうざいんでノーメイクで来いって言ったんですよ?あとは反省がわかるような恰好と態度でって伝えたのになー」


よく見ると手に持っているのは…コンパス?

高校でそんなもの使わないだろ…

一応数学の為に持ってるんだよね、そうだよね…


「ふふ、せんぱい♪」

「な、なんかあったか?」

「いいえー、ちょっと呼んでみただけです♪」


いやしかし可愛いなほんと…

改めて見なくてもこんなハーフっぽいお人形さんのような雪乃がなんで俺を好きなんだ?それが一番の謎だよ…


どうやら羽田さんもクラスの女子からは少し面倒がられていたようで、北条と併せてクラスの厄介ごとであったようだ。


そんな二人が倒されたクラスはのびのびとしていた。

そして話題は夏前に行われる体育祭についてもちきりだった。

江川とそのことについて話していると水原さんが割って話に入ってきた。


「不死川君は体育祭なにに出る?当然雪乃と二人で出るでしょ?」

「え、まぁそうなると思うよ…」

「いいなー、私も彼氏ほしいなー」

「水原さんならいくらでもいるだろ相手くらい」

「あら、嬉しいこといってくれるね!そういうところがモテる秘訣かな?」


会話に花が咲いてしまった…

まずいと思い雪乃を見るとそっとカバンからを取り出すのが見えた…


「ご、ごめん二人ともちょっと雪乃に用事があるから」

「はーい、ほんと仲良しねー」


急いで雪乃を教室から連れ出した。


「どうしたんですかせんぱい?」

「あ、あのノートを教室で出すのはやめようよ…」

「だってきちんと書いておかないと忘れるでしょ?せんぱいがどんな悪さをしてきたかをずっと書き記していくんです」

「だから何もしないよ!クラスメイトとただ話してるだけだから…」

「それが浮気に発展しないって保証はないですよね?」

「い、いやでも…もしそんなことしたら死んで詫びるよ」

「死なないくせに?」

「あ、そうか…」


雪乃の目の奥が濁っている。


「私、不安なんです…せんぱいってそんな体だから私より絶対長生きするでしょ?私が死んだあとに他の女と恋すると思うと胸が苦しいんです…」

「いや何年先の話だよ…それに俺も不老かどうかわかんないし…」

「じゃあ私が死んだら一緒に土の中に入ってくれますか?」

「い、生き埋め?」


確かに俺はこの先どうなるんだろうか…

雪乃も俺がこんな体になったから不安でこんな風に…なったわけじゃないな。

こうなる前からずっと雪乃は束縛も嫉妬もえぐかったよな…危うくだまされるところだった。


「と、とにかく女子との会話くらいは社会に出てもするんだから容認してもらわないと生きていけないよ…」

「あれ、せんぱい社会に出る気になったんですか?この前までは人と関わらないとか言ってたのに前向きになってくれたんですね♪」

「あ、確かに…」


雪乃と再会するつい一か月前までは、俺は半分世捨て人みたいなことをしてふさぎ込んでいた。

もう人とは関わらずに生きようなんて思っていたはずなのに…


「再会した時のせんぱいは本当に顔が死んでたからちょっと心配だったんですけど…安心しました♪」

「い、いや雪乃のおかげだよきっと」

「本当に私のおかげですかねー」

「そ、それ以外ないだろ!?」


多分死んだような顔をしていたのも雪乃のせいだと思うけど…

でもこいつの明るさというか周りを気にせず突き進むところは見習わないといけない部分もたくさんあるな…


廊下で雪乃と話していると今度は上田さんが声をかけてきた。


「ねぇねぇ、今日はダーツ行くのやめてマッキーの家でみんなでバーベキューしようって話してるんだけど二人とも来れる?」

「わー、バーベキューいいね!せんぱいと一緒に行くね!」

「おっけー、でも屋上でバーベキューできるとかすごいよね!」

「マッキーのおうち楽しみ!」


雪乃は基本的に誘いを断らない。

俺と一緒、という条件付きではあるが付き合いはいい方である。


「せんぱい、今日の楽しみが増えましたね♪」

「バーベキューとかいつぶりだろ?」


何気なく返したその言葉は地雷を踏むことになった。

俺は雪乃意外と付き合ったことなどないが、こういうヤンデレ女子は昔の女の影であったり、自分の知らない彼氏の過去などにひどく敏感であることを忘れていた…


「私としたことないですよね?誰と、いつどこでしたんですか?」

「え、いや小学校の時に家族でしたのが最後かな…」

「あ、嘘つきましたね?私知ってますよ、せんぱいが中2の時にクラスみんなで砂浜でバーベキューしてたの」

「そ、そんなことなんで知ってるんだ…まだ付き合ってもなかっただろ?」

「ほら、覚えてた。私せんぱいのことならなーんでも知ってるんですからね?」

「い、いや今思い出しただけで…頼むからその爪切りをしまってくれ…」

「爪切りって便利ですよねー、爪も切れて糸も切れて、でも結構痛くて拷問にも使えるなんて素敵なアイテムですよねー」

「や、やめろ!爪は再生しにくいんだ…」

「逃げるともっと痛くなりますよ?」

「や、やめてくれ…いたっ!」


深爪にされた…

髪の毛や爪などはなぜか回復が遅いから、少しの間この状態を苦しんだ。

それを見て雪乃は、俺の弱点を一つ発見したと大喜びであった…


その後はバーベキューに行くメンバーはわくわくを抑えきれない様子で盛り上がっていた。

雪乃も楽しみにしているのか、しきりにカバンの中を確認しながらブツブツと何かを呟いていた。


しかし何を呟いているのか聞き耳を立ててしまった。

するとまたしても意味深な言葉が聞こえてくる。


「炭火ならよく燃える…」


一体何が…もちろんお肉の話だよね…


そんな不安を抱きながら昼休みはハンバーグをあーんされながら食し、午後は雪乃がノートに書いている内容がただの板書であることを横目で確認しながら時間が過ぎていった。


そして放課後、バーベキュー会場である須藤さん宅へ雪乃と向かうことになる…
















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