第13話 遊んでただけですよね?

北条のやつ…まだ懲りないのか?


俺と雪乃にあれだけやられても心が折れないなんて大した悪党だよあいつも。


学校に到着したが、北条が何かしているとだけ聞かされた俺は誰とどこで何をしているか全く聞かされて無かったことに気づいた。


あてがないので仕方なく教室に向かうと結構な人数がまだ教室に残っていた。

そして…


「え、北条…だよね?」

「あ、不死川さん!」


そこにいたのはボサボサのヤンキー頭ではなく、綺麗に五厘刈りにされた北条だった。

それに不死川…さん?そんな気持ち悪い呼び方してたっけこいつ?


「そ、その頭どうしたんだ?」

「いや、これは反省の意を込めてというか…姫川さんも含めてみんなに謝らないといけないなって…」

「は、はぁ…」


あんなにバカにしていた姫川さんまでそんな呼び方するとは…

一体この前からの短い間に何があった?

いや、考えられるとしたら…


「雪乃に何か言われた…?」

「ま、まさかそんなことないよ!雪乃様…いや月詠さんに言われたわけじゃなくてこれは僕が自主的に勝手に独断でやったことだから!」


今たしかに雪乃様って言ったよな…

この前の一件が相当効いたのか、それともあの後も雪乃から何かされたのか…


どちらにせよ完全に雪乃に平伏しているなこれは…

いや、それならさっきの雪乃への電話はなんだったんだ?


「須藤さん、さっき雪乃にはなんて電話したの?」

「えー、北条君が学校に来て坊主にしてきて皆んなに謝りたいって話してたからそれを伝えただけだよ?」

「どういうことだ…それになんでみんな今日ダーツ来てないんだよ?」

「え?だってそれは雪乃が明日にしようって…」

「…まさか!?」


俺は急いで教室を飛び出した。


やられた…

あの焦った表情も俺を学校に戻らせるため…

羽田さんと小競り合いがあった後怒ったそぶりをしていたのもダーツの約束をずらしたことを悟らせないため…


そしてその目的は…


「雪乃!…ゆ、雪乃…」

「あれ、せんぱい思ったより早かったですね?」


ダーツ店に戻り部屋を開けたらそこには磔にされて的にされ涙を流している羽田さんとそれを狙う雪乃がいた…


「た、助けて雪乃さん!私出来心だったの!北条君があんなになって、私は仕返ししてやろうって思っただけなの!」

「あれー、的が喋りましたね?まだ矢が刺さってもないのに音が出るなんて不良品なのかな?もう一回衝撃を与えたら直るかな?」

「お、お願い命だけはとらないでー!」


羽田さんからは少し前までの無邪気な様子も不敵な笑みも消えていた。

代わりに本気で命乞いし恐怖に支配された目に涙を浮かべている…


「ゆ、雪乃もういいだろ…」

「いいえ、ダメです。だってー警告したのに聞かない方が悪く無いですかー?」

「そ、それに手に持ってるのダーツじゃなくて鉛筆じゃ…」

「ええ、これの方が芯が残って跡になりますし」

「発想がやばいよ…」


しかし今日の雪乃は俺が何を言っても聞いてくれる雰囲気すらださない…


「でもねー、そうやってすぐ他の女の子を庇うせんぱいもいけないんですよ?」

「え…」

「だってー、私の心配より先に有紗さんの心配するとか普通に傷ついてるんですけど…そんなに有紗さんがよかったの?」

「い、いやこの状況みたら誰だって…」

「私はそれでもせんぱいのことしか見えないと思うけどなー。なんでせんぱいは他の子にばかり目がいくんだろ?その目も、私が貰っちゃった方がいいかしら?」

「ま、待て!」

「待ちません、遊びが過ぎる人にはこうです、ほら!」

「あがっ!」


俺の腕に鉛筆が突き刺さった…


「痛いですか?でも私もせんぱいが優しくしてくれないから胸が痛いです…女の子と話すのを見ていると苦しいです…だから反省してくださいね、せんぱい♪」

「は、反省します!だからやめ…」

「これは虹子ちゃん、これはマッキー、これは有紗さんの分かしら?」

「わ、わかったから!痛いからやめろ!」


腕に何本も恵美が刺さっている俺の姿を見て羽田さんは失神していた…


「ふふ、有紗さん気絶しちゃいましたね?心配しないんですかせんぱい?」

「し、しない…」

「よかった、せんぱいに私の気持ちが伝わったんですね♪さてと、ちょっと有紗さんにご挨拶してから帰りましょうか」


そういって笑いながら羽田さんのところに雪乃が向かうと、肩を揺すって起こした。


「う、うん…ひっ!ごめんなさいごめんなさい!」

「落ち着いてください有紗さん。有紗さんは今日みんなでダーツで遊んでただけですもんね?」

「え…?」

「だからー、ダーツで遊んでただけ。ですよね、ね?」

「は、はひ!」

「よかった、物分かりがいいのは助かります♪じゃあ明日学校で。話しかけたら殺すけど」

「ひ、ひー!」


雪乃の顔は見えないがきっと笑顔なのだろう。

それもとびきり満面の…


「せーんぱい♪ダーツ楽しかったですねー」

「う、うん…俺は投げてないけど…」

「みんなでダーツに行くことに何か期待してました?」

「し、してないしてない!なんなら家にダーツセット買っちゃう…?」

「いいですねそれ!帰ったらネットで探しましょ♪」


羽田さんを置いて先に部屋を出て帰ることになった…


雪乃の狂気が加速している…

少し機嫌をとらないと…


「雪乃、気持ちはわかったからあんまり無茶しないでくれよ…」

「それは私が心配だからですか?」

「そ、そうだよ…俺はお前があんなことして誰かに嫌われたりするのは嫌だ…」

「それは私が好きだからですか?」

「う、うん…だって俺たち付き合ってるんだから」

「えへへ、わかりました♪せんぱいに迷惑かけないように頑張りますね!」


雪乃はすっかり機嫌を取り戻した。


「さて、今日は遅くなっちゃいましたから出前でもとります?」

「ま、まぁたまにはいいかもね…」

「じゃあお寿司でもとりますか♪」


嬉しそうに電話で出前を頼んだあと、もう一軒別の場所に電話をかけている雪乃はずっと俺の腕を掴んでいた。


そして家に戻り二人でゆっくりしていると出前が届けられた。


桶に入った高そうな寿司を二人で食べていると、雪乃がボソッと呟いた。


「明日のダーツ、あの二人も呼ぼうかな」


たしかにそう言った。

あの二人、とはおそらく北条と羽田さんか…


何かとんでもない企みを思いついた悪党のような笑みを浮かべながら寿司を食べる雪乃は俺の視線に気づいてこっちを見てきた。


「どうしたんですかせんぱい?私の顔に何かついてます?」

「え、いやなにも…」

「あーわかった!私がお寿司食べてる姿に見惚れてましたね?ふふ、せんぱいのエッチ♪」


雪乃は微笑んだ後、誰かにすごいスピードでラインを打っている。

その時の楽しそうな顔はあまりに印象的だった。


そしてまた小さな声で呟いたのを俺は聞いてしまった。


「やっぱ喉だな」


その言葉の意味はわかる。

だがわかっても触れてはいけない…


空になった寿司桶を置く渇いた音と水道の水が流れる音だけがこの部屋を包む。


そんな静寂にも似た張り詰めた空気の部屋に電話の音が響く。


水道を止めて雪乃がゆっくりと電話を取る。


雪乃が加速してのを肌で感じながら、俺は何も見ていないとテレビの画面に目を向けた。


番組など見ていない。


ただを見つめていた…


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