第18話 誰の話ですか?
ゲームセンターに到着したが、相変わらず雪乃は不機嫌だった。
「雪乃、あそこにかわいいぬいぐるみがあるぞ!あれにしようよ」
「せんぱい、あそこに可愛い店員がいますけどもうチェックしてますよね?」
「…ほ、ほらこっちにもいっぱいあるぞ?あ、これなんかかわいいなぁ」
「あ、受付の人もせんぱい好みですね。パラダイスですねここ。この店は人をダメにする店ですねどうにかしないといけませんね」
「だ、誰も女の子なんて見てないよ…」
「誰も女の人とは言ってませんよ?可愛い男子がいただけなのにどうしたんですか?やっぱり女の子が気になりますか?」
い、いかん…完全に雪乃の病気が悪化している…
「と、とりあえずさっきと同じぬいぐるみにする?」
「いえ、あれは汚らわしい童女が所有してるのでいいです。それともあの子との思い出を家に飾りたいですか?」
「な、なんでそうなる…じゃあ…こっちの猫にするかなぁ、あはは…」
どうしたらいいんだ…
今日はフォローしてくれるクラスメイトもいないし…
「雪乃、もう怒らないでくれよ…せっかくのデートだし」
「私とのデートは楽しいですか?」
「も、もちろんだよ!」
「ここにいっぱいかわいい子がいるからですか?」
「い、いや雪乃と二人でいられるから楽しいんだよ…」
「じゃあ女性店員が声かけてきても無視できますか?」
「す、するする!無視するし話さないから…」
「離さない?」
「会話しない!」
「…わかりました、じゃあこの猫さんをとってくれたらいいですよ♪」
やっと雪乃の機嫌を勝ち取った…
あとはこの猫を…
「せんぱい、この猫さんの顔ちょっとせんぱいに似てますね♪」
「え、似てるかなぁ…」
「ええ、人を惑わしそうな目付きをしてます」
「ま、まだ怒ってたんだ…」
取ったら許すということは、取れるまでは許さないということだが、そこまで徹底しなくても…
とりあえず猫連れて帰ろう…
UFOキャッチャーは得意ではないのだが、雪乃の視線を感じ否が応でも集中できたせいか絶妙なところを掴んだ。
「よし、かかった!あとは穴まで…」
「あ、これいけそうですね!いけ…いったー♪」
なんと一発で取れたことで雪乃の機嫌メーターはプラス方向に大きく振れた。
「せんぱいすごーい♪私がほしいやつ全部取ってくれるし、素敵♪」
もうはしゃぎすぎて騒がしいゲームセンターの中でも雪乃の可愛らしい声が響いていた。
「た、たまたまだよ…でもまぁ雪乃に渡したいって思ってたから願いが通じたかな?」
「やーん、そんなのロマンチック♪この猫さん名前つけないとですね♪」
大きな可愛い猫の人形をギュッと抱きしめながら喜ぶ雪乃の顔はとても赤くなっていて、どれだけ喜んでいるかが見てすぐにわかるほどだった。
「せんぱい、決めました!」
「え、なにを?」
「この子の名前です♪」
「あ、ああ…俺に似てるんだよな?」
「はい、ニャンコにしました♪」
え、そこは普通にそんな感じなんだ…
ちょっと俺を皮肉った名前が飛んでくるかと覚悟していたが…
「か、可愛いな。ニャンコか」
「第二候補はおんにゃたらしでしたけど」
「た、たらしじゃないだろ…」
「え、誰の話ですか?」
「い、いや…誰の話かな、はは…」
たらすような天然の魅力が俺にあるというのなら教えてくれ…
「ニャンコは汚さずに連れて帰りたいので今日は帰りましょうかせんぱい♪」
「そうだな、結構なんだかんだ歩いたし…」
「ニャンコもおうち帰りましょうね♪ふふ、可愛い♪」
こういうところは本当に女の子と言った感じだな…
「見てください、肉球がモフモフしてます♪」
「気持ちよさそうだな、俺も触らせてよ」
「はい、どうぞ♪」
「ほんとだ、気持ちいいかも」
「私とどっちが気持ちいいですか?」
「え、そ、そんなの雪乃に決まってるだろ…」
「やだー、せんぱいムラムラしてますね♪」
え、ニャンコにも嫉妬するの?
嘘だろ…
「晩ご飯なんにしようかなー、せんぱいはお肉希望でしたよね?生姜焼きでも作りましょうか?」
「あ、食べたいなそれ!今日はお腹空いたし」
俺を救ってくれたニャンコを連れてスーパーで買い物をした後、家に戻ると雪乃はずっとぬいぐるみをモフモフしていた。
よっぽど気に入ってくれたようでよかった。
最初に取ったクマは今頃女の子の家で平和に暮らしているだろうか…
「今日からは三人で寝るから布団が狭いですね♪」
「そ、そうだな。でも抱き枕みたいで気持ちよさそうだなそれ」
「それ?この子はニャンコですよ?」
「あ、ああニャンコは気持ち良さそうだなぁ…」
「はい♪」
この猫の人形に救われたと思ったが、一転して地雷を拾って帰ってしまったような気がする…
「せんぱい、私とこの子どっちが可愛いですか?」
「え、そんなの雪乃に決まってるだろ?」
「そんな即答したらこの子がかわいそうです!」
「え、うーん迷うけど雪乃かなぁ」
「いや迷うほどではないと思いますけど」
「す、すまん…」
…めんどくせー!
これ正解どこだよ…
「じゃあお風呂入ってきますね♪」
「あ、ああ…」
てっきり一緒に入ろうと言われるかと思っていたけど…
いや全然この方がいいんだけどな。
「ニャンコ一人にすると可哀想だから見ててくださいね♪」
「ま、任せろ…」
そう言って雪乃が鼻歌混じりで風呂に入った。
俺は部屋に一人、いやニャンコと二人で取り残された。
可愛らしい猫のぬいぐるみと視線が合う。
どこか首を傾げて俺を見ているような感じがする。
でもお前のおかげでなんか助かった…
ありがとうと言わせてくれ…
何も物言わず猫のぬいぐるみがこちらを見ている。
風呂場から雪乃の鼻歌が聞こえる。
俺はそっとぬいぐるみの肉球を触ってみた…
何をしてるんだと思いながらもただ肉球をモフモフしていた。
虚しさと空腹でただ今日と言う日を振り返りながら、ぬいぐるみを抱えている自分が雪乃に染まりつつあると気づいたところで雪乃が風呂から出る音がした。
ただぬいぐるみを抱いていた。
そして二人で雪乃をお出迎えした…
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