第9話

「待った?」

タケシは約束の時間から30分も遅れて待ち合わせ場所に現れた。

「遅すぎるでしょ。30分以上も待ったよ。」

私はタケシに怒りをぶつけた。


「そんなに怒るなよ。そもそもいきなり会おうなんて言ってきたお前のために無理にでも時間を作ったんだから、そこまで怒られる筋合いはねーよ。」

タケシは露骨にイライラを態度に表してきた。


「時間を作ってくれたのは素直にありがとうって思ってるよ。そんなに怒らないでよ。」

「別に怒ってないよ。で、突然、何の用?明日の件?」

「明日のことも話したいけど、その前にタケシに聞きたいことがあって。」

「なんだよ?」

「タケシがさ、殺して欲しいっていう対象として選んだ人って誰だったのか教えて欲しいなって思って。」

「なんだよ急に。別に誰だって良いだろ。」

「良くない!」

私は思わず大きな声を出してしまった。


「急に大声出すなよ、びっくりするだろうが。」

「ごめん。でも、どうしても教えて欲しくて。」

「なんでそんなに聞きたいんだよ。」

「私の彼氏が昨日の夜、暴漢に襲われて死んだのよ。で、今日、タケシから明日の件について連絡が来て。そうなったら、もしかしたらタケシが私の彼氏を殺して欲しいっていう依頼をしたかもしれないって思っちゃっても仕方ないでしょ。」

「なんで、俺がお前の彼氏を殺してくれって頼むんだよ。」

「そうだよね。ごめん。急に彼氏が殺されたって聞かされて平常心ではいられなかっただけだから気にしないで。」


「大丈夫だよ、仕方ないって。で、明日はどうすれば良い?」

「タケシ一人でしか会ってもらえないはずだから、待ち合わせの時間とお店、あと相手の名前だけ教えてもらっても良い?」

「分かった、あとで送っておく。ってか、お前大丈夫か?俺にできることがあったら言ってくれよ。」

「ありがと。」


タケシの反応を見る限り嘘をついているようには見えなかったから、私はタケシのことを疑ってしまったことを後悔した。

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ワンコイン殺人 乃木希生 @munetsu

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