第45話 おにいちゃん④

 朝がきた。六回目の朝だった。

「おにいちゃん」とわたしが言うと、お兄ちゃんはこっちを向いた。

「どうしたの?」とお兄ちゃんが言って、わたしの頭を撫でた。

お兄ちゃんは今、布団の上で寝ている。

「おにいちゃん、ダイジョウブ?」とわたしは聞いた。なぜかと言うと、お兄ちゃんは怪我をしていて歩けないのだ。

「大丈夫」とお兄ちゃんは言った。笑う顔もふつうだったし、痛そうでもなかった。一度足を見せてもらったけど、血も出てなかったので、わたしは、きっとすぐに治るよ、とお兄ちゃんに言った。

 なんでお兄ちゃんは歩けなくなっちゃったんだろう。よくわからない。

 夢の中でもお兄ちゃんは歩けなかった。かなしい。


       *


 七回目の朝がきた。

「おにいちゃん、ダイジョウブ?」とわたしが聞くと、お兄ちゃんは「うん」と言った。わたしの頭を撫でてくれようと手を伸ばしたけど、お兄ちゃんの手は途中でとまった。

 畳の上に、ぽたん、と落ちてしまったお兄ちゃんの手を持って、わたしは自分の頭の上に乗っけたら、お兄ちゃんは、よしよし、と言って手を動かしてくれた。でもそれはいつもみたいに動くのじゃなくて、震えてるみたいだったので、わたしはとっても心配になった。

「ごめんね、ご飯つくれなくて。カレー沢山つくっておいてよかったね」とお兄ちゃんは言った。

「うん、よかった」とわたしも言った。

 それよりもお兄ちゃんのほうが心配だったけど、お兄ちゃんの手がなんで動かなくなったのかはわからなかった。だれかに聞こうとおもったけどお兄ちゃんは大丈夫って言うので、わたしはきけなかった。お兄ちゃんが悲しそうな顔をするのはとてもイヤだ。

 こわい夢をみた。


       *


 八回目の朝がくると、お兄ちゃんは喋れなくなってしまった。

 お兄ちゃんはわたしの言葉に、うん、とか、ううん、とか顔を動かすだけだった。

「おなかすいた?」とお兄ちゃんに聞いたら、お兄ちゃんは首を横に振った。

「ダイジョウブ?」とわたしが聞くと、お兄ちゃんは首をたてに振った。

 お兄ちゃんはウソツキだ、ってわたしは思った。お母さんもウソツキだって、わたしは思っていた。

 大丈夫じゃないのに、なんで大丈夫って言うんだろうって悲しくなった。

 でもお兄ちゃんやけーさつのお姉さんに大丈夫ってわたしも言ったので、わたしはお兄ちゃんを怒ったらダメなんだって思った。大丈夫ってベンリだと思ってたけど、やっぱりわたしはキライみたいだ。

 でも心配なことが一つだけあって、わたしは悲しいけど、しょうがなくそれをお兄ちゃんにきいた。

「おにいちゃん、しんじゃう?」

 お兄ちゃんは、ううん、と首を振った。

 わたしはそれだけで、よかったァ、と思ったので、お兄ちゃんと寝ることにした。

 夢を見て、それはお兄ちゃんと一緒に遊んでる夢だったけど、朝になったら楽しかったな、っていう気持ちだけが残っていて、わたしは少しだけさみしくなった。

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