第44話 おにいちゃん③

 お母さんが居なくなって四回目の朝に、けーさつが来た。

 けーさつの人は、悪い人を退治する人じゃなくて、わたし達をまもってくれる人でした。


「お母さんから心配だっていう話を聞いて、見回りにくることになったのよ」

 けーさつの格好をしたお姉さんは言った。

「一人じゃ心配でしょうから、一応、色々なことを考えてきたんだけどね」


「どんなこと?」


 お兄ちゃんはちょうど買い物に出かけていて居なかった。早く帰ってきてお兄ちゃん、とわたしは思った。


「私達が定期的に見回ったり、ご近所の方のご協力を得たりするのよ」

「わたし、ダイジョウブだよ」

「大丈夫かもしれないけど、一応ね。あ、それと——」


 ご近所っていうのは隣とか下に住んでる人ね、とおねえさんは教えてくれた。

 わたしの家の、下とか左とか右とかのお部屋には、違う人が住んでいる。ミィちゃん家は一個の家にたくさん部屋があるのに家族は一つしかないので、わたしは不思議だったけど、お兄ちゃんは、そういう家もあるんだよ、と教えてくれた。 

 けーさつのお姉さんに、どうする?、と聞かれてわたしが困っていると、ドアが開いた。お兄ちゃんが帰ってきたと思ってわたしは、「おにいちゃん」と言ったけど、入ってきたのは女の人だった。たまにウラニワに居て、猫とあそんでるお姉さんだ。


「ああ、悪いね。取り込み中だったのか」と、そのお姉さんは言った。「ここの大家なんだけど、今話せるかな。事情は聞いてると思うんだけど」

「あ、これはどうも」


 けーさつのお姉さんは、わたしに、「ちょっと待っててね。大家さんと話してくるから」と言うと出ていった。


 お兄ちゃん早く帰ってきて、と思ってわたしは目をつむった。おーやさんというお姉さんや、けーさつのお姉さんが居なくなると、部屋はとても静かで、わたしはとても怖くなった。


 お兄ちゃんお兄ちゃん、と口を動かしていたら、ドアの開く音がして今度は絶対にお兄ちゃんだと思ったら、やっぱりお兄ちゃんでわたしは嬉しくなった。


「ごめん、なにかあったみたいだね」

 お兄ちゃんは息をはァはァと吐いていたので、きっと階段を早く上がったんだろうな、とわたしは思った。


「ダイジョウブ」とわたしが言ったら、お兄ちゃんは、よかった、と言って笑ったのでわたしも笑った。大丈夫って、本当にべんりな言葉だなって思った。

「今さ、大家さんと会って話したんだけど……ぼくたちだけで大丈夫だよね」

「うん」

「お母さんも、あと少しで帰ってくるってさ」とお兄ちゃんが言って、少しだけ笑った。


 少しだけ、というのはいつものお兄ちゃんの笑顔より、少しだけ寂しそうだったという意味だ。なんでだろう、って思ったけど、わたしは聞かなかった。聞かなくても大丈夫だと思った。

 その夜の夢にはお兄ちゃんが出てきた。お兄ちゃんとわたしは、えーんえーん、と泣いていた。

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