第43話 おにいちゃん②

 お母さんはお仕事が忙しい。お父さんがどっかに行ってしまってから、とても忙しくなったのだ。

 お母さんの口癖は『大丈夫よ』だ。大丈夫っていうのは、平気っていう意味で、だから心配しないで、ってわたしに言ってるのだって思った。でもお母さんは大丈夫じゃなかったと思うから、わたしはとっても心配だった。

 お母さんが倒れてから今日までに三回寝た。夜はお兄ちゃんとお風呂に入って、一緒の布団で寝た。お兄ちゃんは色んなことを知っていた。昔はこういうことがあった、だとか、料理はこうやってする、だとか、こういうことはしちゃいけない、だとか、生き物は死んでしまう、だとか。


「おかあさんも、しんじゃうの?」

 わたしが心配していると、お兄ちゃんは頭を撫でてくれた。

「教えかたが悪かったかも。お母さんは死なないよ。それは大丈夫。まだ平気なんだ」


 お兄ちゃんもお母さんと同じ言葉を使ったので、わたしは少し心配になったけど、うん、と言って笑ってみた。


「わたしもダイジョウブ」とお兄ちゃんに言うと、お兄ちゃんは「よかった」と言って眠った。

 大丈夫って便利な言葉だなァ、と思って少しだけ好きになった。

 夜だったからわたしも眠くなってきて、いつの間にか目を瞑っていた。

 その夜はちょっとだけ怖い夢を見た。でも起きたらどうして怖かったのかは忘れていた。

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