第42話 おにいちゃん①

 その日の夜は少し怖い夢を見た。

 お母さんが居なくなってから二回目の朝だった。


「大丈夫だから、安心してね」


 お兄ちゃんはそう言ってわたしの頭を撫でてくれた。

 なんだか嬉しくなってわたしは、うん、と頷いた。


「えらいね」とお兄ちゃんが褒めてくれたので、わたしは「だってもう七さいだもん」とえばった。

 そうだね、とお兄ちゃんは嬉しそうに笑った。

「でも」とわたしは言う。「おかあさん、いつもどってくるのかな」

「どうだろう。わからないや」

 お兄ちゃんが困った顔をしたので、わたしは笑いたくなかったけど笑ってみた。お兄ちゃんが困るとわたしが困るので、わたしが笑えばお兄ちゃんも笑うかなって思ったのだ。やっぱりお兄ちゃんはわたしを見てから笑ったので、わたしもやっぱり笑った。


「今日のゴハンはなに食べたい?」とお兄ちゃんは聞いた。「お金の心配はいらないよ。料理だって教えてもらったんだから」

「うん」


 お母さんが救急車で病院に行ってから、いつもお兄ちゃんがご飯を作ってくれた。わたしより少しだけ大きいだけなのに、すごいえらいなー、とわたしは思った。


「カレーがいい」とわたしが言うと、お兄ちゃんは「昨日もカレーだったよ?」と言った。

「うん。カレーすき」

「そっかァ」


 お兄ちゃんはちょっとイヤそうな顔をした。よくわからなかったけど、お兄ちゃんはカレーがあまり好きじゃないみたいだ。


「オムライス!」とわたしは言ってみた。

 お兄ちゃんは、お、という顔をした。

「今日はオムライスにしようか?」


 お兄ちゃんはとても嬉しそうだったのでわたしも嬉しくなった。


「うん」と頷いてから、一緒に外に出た。

 外は危ないから、お兄ちゃんと手を繋いだ。

 お兄ちゃんの手は大きくて、あったかくて、気持ちいい。わたしはお兄ちゃんがお兄ちゃんだってわかったときからお兄ちゃんが大好きだ。お母さんと同じくらい大好きだ。

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