第27話 モミジEND

 太郎は夢を見ていた——。


 夢は、椛の絨毯の上で一匹の猫を拾うことから始まった。

 毛並みの美しい黒猫だったが、名はモミジとすることにした。椛の上で拾ったからだ。それは頭の足りない猫だったが、太郎はモミジと人生を歩むことを決めた。


 場面転換。


 人間と猫は、何年も何十年ものあいだ、一緒の部屋に住むことになった。様々な苦難を共に乗り越えることになった。嬉しいときも悲しいときも一緒に笑って一緒に泣いた。


 場面転換。


 しかし太郎は知った。それらは、まだ見ぬ夢の果て。一人と一匹の持つ、星の数ほどある可能性の一つでしかないのだ。

 人生は分岐する——太郎は何か、巨大な力を肌で感じた。ソレに教えられた。人生は枝分かれをするのだ、と教えられた。


 場面転換。


 テレビを見ている。画面の大半は黒色で、中央にだけ白い光が映っていた。それは白い小さな穴にも見えた。太郎とモミジは、二人してそれを眺めていた。小さな穴にしかみえないというのに、身体ごと飲み込まれてしまいそうな、不気味な白色だった。


 秘めたる可能性かー、それは猫でも同じことなんだなァ、と妙に感心しながら、太郎はモミジとてんぷらをつついていた。二人で取り合いながら食べるが、椛のてんぷらはいつまで経っても無くならない。


 ——そんな夢を太郎は見た。

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