第17話 アヤカの日記③
アヤカの日記/3
「まほーつかい?」
復唱した私の唇は固まった。まほー——と言ってからそれが『魔法』だと悟る。
「……冗談、ですよね?」
「冗談に近いかもしれない。でも、嘘ではないよ」
大家さんに悪びれた様子はない。うっすらと笑みを浮かべながら私を見ている。
「魔法って、あの、物語とか、映画とか、ゲームとかの魔法ですか?」
脳裏に老獪な魔女の絵が浮かんだ。それかひげの長いおじいさん。どちらも大家さんには似合わない。
「魔法って素敵だよね。人を幸せにするんでしょう?」
ニコリ、と笑う大家さんは私を指差した。
「だから今、アヤカちゃんは幸せを知っている」
問いかけの意図もわからずに私は答えた。
「えっと、まあ……そうでありたいとは思いますけど……」
「それがあたしの信じる魔法の効果――いや、ちょっと言い過ぎたかな。気づくまでのお手伝いをするっていうか、応援するっていうか……そんな感じの魔法なのかなァ。うーん。どうなんだろう」
大家さんはそれから、一人で悩み続けていた。
そもそも私には返す言葉が見つからない。それに、仮に知っていたとしても答えられなかったことだろう。
何故かといえば、ある言葉が先から私の心をかき乱していたからだ。
「まほう……」
口にした途端、背筋が震えた。自分の表現を思い出した。
そうだ。
まほう。
魔法だ。
魔法のような日々を見つける為に、私はここへ訪れた。
そして大家さんは言った。
私の魔法、と。魔女や魔法の真偽は定かでないが——あの不思議な体験は、つまり大家さんの仕組んだことだったのだろうか。
未だに言葉を止めない大家さんへと向けて、私は尋ねた。腰は自然と浮き、身体は前のめりになっていた。
「あ、あの! 私、実は——」
「——ちょっと待った」
大家さんは掌を私へと向けた。緩やかに流れていた言葉は、その勢いを変えた。
「今から、あたしの魔法を話してあげる」
「え?」
「あたしは魔法が使えるの。それは命の可能性を引き出すという魔法」
大家さんの顔に誇らしげな表情が広がった。
「その魔法で、あたしは自分の視界にうつる全てを守ってきた」
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