第113話

絵を描くことは好きだった。

ゆったりとくつろげる時間がこれしかなかったから、絵を描くことは自然と上達していった。


そんな過去を振り返りながら部活動体験の一環でデッサンを始める。見たままに物を写していくこの練習は、なんだかんだ言って一番大切で、それなりに難しいと思う。理由は簡単、理想が目に見えて存在するから。しかもそれはたいてい目の前にあるから自然に比べられてしまうし、実物に知被けていくための技法を考えなきゃいけないから慣れるまでは凄い頭を使う。

慣れたとしても自分の中の理想がどんどんと遠くに行ってしまうから、果てしがない。


「ふー……。」

一段落がついたところで休憩をする目的で周りを見る。自分が思っているよりも、久しぶりの『絵を描く』ということは自分が思っている以上に体に力が入ってしまっているみたいだった。そのせいか、体が痛い。周りを見ようと体を動かすたびに『バキバキ』と嫌な音が鳴る。


その時に目に入ったのは亀谷君のデッサンと良子さんのデッサンが目に入る。


亀谷君は…悔しいくらいにうまかった。自分がどこを見せたいのかをはっきり伝わってくる絵だった。

良子さんの絵は…デッサンではなかった。もしもデッサンではなく近代芸術であると言われれば納得の出来そうな絵だった。


「良子さん……。それは?」

「?、これデッサンの練習だからモデルだよ。」

当然の如く言ってのける彼女を尊敬までするしかない…。

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