第106話

長い長い教室からの道を歩いていく。

途中では亀谷君とも良子さんとも大田君とも取手さんともすれ違わなかった。

 誰ともすれ違わないってのはそれだけで怖くなってくる。たとえ話さない人でも顔見知りがいれば安心するけどその頼りにする知り合いすらいない。


……どうしよう。教室行かずに今日はこのまま帰ろうか、そんな考えが頭を過ぎる。でも…そうすると学費が勿体ないな。

 頭の中で天使と悪魔が大乱闘を繰り広げている。

悪魔が『帰って寝てしまった方がいい』と言い、天使は『学費の無駄遣いはいけません』という。

 そんなことに意識を向けている間にも階段を登り切ってしまった。もう自分の教室のあるフロア…絶望しながらも教室の重いドアを開ける。


「あ、大通君。おはよう。」

教室のドアを開けたとき、俺の望んでいた声が聞こえた。

「亀谷君…。おはよう」

一年ぶりに再会した人のノリで声をかけてしまう。名前を呼ぶのだけで感動してしまう。



「昨日のノートって見せてもらってもいいですか?」

「もちろんです。ぜひ見てください」亀谷君がいなくて珍しく真面目にとったノートだから自信がある。見にくいわけでもないし、自信しかない。

「ありがとうございます」

「この教科は今日にないやつなので明日の授業までにノート返してくれればいいので急がなくてもいいです。」

「いや。家に忘れるのも怖いので今日中に終わらせて見せます!」

あー話し相手がいるなんてなんて素晴らしいことなんでしょう。

毎時間寝るしかやることがなかった最悪という他なかったこの時間がこんなにも楽しいなんて…。

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