第70話

拍手の中入場するというのは何歳になっても緊張するな。中学生の時に入場した時と変わらないレベルの緊張に襲われる。「大通、大丈夫か?」ケロッとしている大田君はその外面と同じでちゃんと度胸があるんだなーと改めて感心する。

「緊張なんてするだけ損だぜ。こんな行事。」こんな事を言いながらよく見ると膝が笑っているのに気づいてしまった。頑張ってスルーを決め込むことにする。頑張って格好をつけているところにそれを指摘したら流石に可哀想だから指摘しない。


俺たちのクラスの入場の番になって入口が近くなってきた。拍手の音が段々と大きくなってきた。…マジで緊張する。「ふ~」深呼吸をして緊張を和らげる。後ろから聞こえてくる「はっはっふー、はっはっふー」とかいう深呼吸は無視させてもらう。



特に問題を起こすわけでもなく入場をすることが出来た。椅子に座ってからはあんまり緊張をしないから気持ちを落ち着けながら椅子に座り続ける。「8組の入場です。拍手で迎えてください」そんな司会の人の掛け声を合図に一度静かになった体育館が再びにぎやかになっていく。俺らもした方がいいのか悩んで眼だけで回りを見てみると、みんな拍手をしてない。あぶねー拍手をするつもりだった。こっちに来てからの一か月での進化。一か月前までの俺だったら確認する前に拍手をしてたわ。

三分ぐらいしてようやく最後の人が席に着いたらしい。拍手が小さくなってくる。

「9組の入場を拍手で迎えてください」静まり返ってから俺らにとっては二度目のこの掛け声がかかる。まだ続くのか…もうそろそろ腰が痛くなってきたんだけど。


頑張って意識をとばして15組までの記憶をなくした。「以上527名です。それでは入学式をはじめます。全体起立。」まだ始まってなかったのか。貴重な立っていいこの時間を堪能しないと本当に腰が壊れそうなので目立たないように注意しながら前に体重をかけて膝を伸ばす。腰は目立たないように伸ばすやり方が分からないから仕方なく膝だけ伸ばして終わり。


点呼が始まってしまった。527人も全員呼んでたらここにいる人の半分は腰を壊すぞ。

心配の必要はなかったらしい。スピーディーに進んでいく。「太田 忍」「はい」おおー大田君が返事をしている。しかもめっちゃ真面目に。「大通 一真」「ぇ、はい」大田君のことを考えてたら次が俺だった。大田君が笑いをこらえるのに必死そうだからとりあえず足を蹴っておいた。出来るだけ弁慶の泣き所に当たるように意識しながら。

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