第66話

「まあこんなことろでグダグダやっててもしょうがねえから店の中入れよ」馬鹿が移るとかいろいろ言われて不満そうな大田君は無視され、吉田君は俺を見てそんなことをいう。「なぁ、最近忍と信良が付き合ってるって聞いたんだけどマジか?」小声で大田君に聞こえないように話しかけられる。「はい。付き合ってますよ、完全に尻にひかれてますけど」「ほぉー」顔を見るとニヤニヤいじるネタができたと言わんばかりの悪い笑みをしていた。

「あ!そうだ。忍、お前何を買いに来たんだ?」さっきまでのニヤニヤを一切感じさせない爽やかな笑みで大田君に問う。「あ?まあ、そのあれだ雑誌を適当に見に来ただけだ」「ほ~?いつものスポーツ雑誌か?それともバイクのか?」「なんでもいいだろ、なんだそんなに俺の趣味を知りたいのか?」「いや。最近お前に彼女ができたって聞いてな。その系統の雑誌を多く仕入れすぎちまってな。もしよければ安くしておこうかなーって思っただけだから気にしないでくれ」

「…その仕入れすぎて安い雑誌を買ってやるよ。」謎の真顔のまましばらく悩んでから蚊の鳴くような声で言っている。「え?なんだって?てか相手は誰なんだよ?タイミングが合わなくて聞けなくてさ」「あ?それがお前に関係あんのか?」「あるさ。だちの彼女が誰だか気になるじゃねえか」さわやかな笑顔を維持したまま大田君を追い込んでいく。怖。「信良だよ。信良と付き合ってんだけど文句あんのか?」もはや開き直って怒鳴る。「え?まさかとは思うけど中学の時信良と付き合わないと一生誰とも付き合えないって言われても付き合わないとか言ってたのに~?」「うぜー。言ったんだからさっさとよこせよ」「ああ。そうだったな。もってけ、このコソ泥」そう言って投げ渡すのは恋愛雑誌じゃなくて婚約雑誌。大田君はコソ泥って言われたのが気に食わなくて気づいていない。「りいの。てめぇあげるって言ったのにコソ泥扱いか?」それ以上に気にしなきゃ行けないところがあるけど仲良さげな二人の間に入るのが嫌だから何も言わない事にする。決して吉田くんに恨まれるのが怖いからじゃない。

「あー、もういいや。太田帰ろうぜ」本当に雑誌の正体に気付かぬまま店を出て行く。


家に帰る道のりでも気づかなかった。…もしかして気付いてる?じゃあわざわざ自分の口から言わせて恥ずかしい思いさせる理由もないな。



その日の夜に隣の部屋から取手さんに揶揄われる太田くんの声と太田くんが驚いている声が聞こえてきたのはいうまでもない事である。

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