第58話
今起きたところだから全然眠くない。俺が起きた時の正確な時間は0時37分。それから何をしようにも時間が時間のせいでやる気が出ない。どうしても時間をおもてあましてしまうのでこの間のように屋上に行ってみる。もしかしたら良子さんや大田君に会えるかもしれない。
やたらと静かな廊下、街の灯り、下の道を通る車の音以外何も聞こえないし見えない環境だった。
黙って柵に寄りかかって夜景を眺めてみても何も良さが分からなかった。…なんの実りにもならないことをやってても仕方ないから鼻歌でも歌ってみる。「ふん、ふんん~ふんん」思いついたリズムを鼻で刻んでみる。
「大通君は~夜の~屋上で~一人悲しく~鼻歌ですか~?」突然話しかけられてびっくりしたけどあれだけの声量で歌っていれば靴の音なんて気づけなくて当然か。一人悲しくとかいう若干の悪口要素は無視する。
「取手さんも眠れないんですか?」最近このセリフをよく言ってる気がする。
「いいえ~私は~ただ~春休みが~こんなにも~早く~過ぎてしまうのが~もったいなくて~起きていたら~上の方から~鼻歌が~聞こえてきて~話し相手に~なってもらおうかな~ってこっちに~来ただけですよ~」もう大田君の部屋に当然ように泊まってることについてはつっこまない。そこに触れたら負けな気がする。
「じゃあ俺が眠くなるまで雑談に付き合付てください。」「分かりました~。なんの~話~します?私~今~ものすごく~眠くて~話題を~考えるほどの~余力が~ないんです~。」
何が話題に相応しいのかが分からない。…大田君の事を話題にしよう。そうしよう。
「太田君と付き合い始めてから何か変わりました?」「やっぱり~一番の~変化は~忍君の~部屋に~私の~着替えを~置くように~なったことですかね~。あ!後はお泊り会の~頻度が~やたらと~上がったね~」流石毎晩喧嘩なのかじゃれあいなのか分からない声が聞こえてくる人たちは違うは。
「そうえば~今~思い出したんですけど~大通君って~食べられる~料理~作れる~っていう話でしたよね~。血とかの味を感じさせない方法って知ってます?」もうその質問が怖い。あるにはあるらしいけど何にその知識を使うのかが怖くて教えられない。「すいません。わかんないです。」「そうですか~自分でも~色々~試しては~いるんですけど~どうにも~上手く~いかなくて~。」何のための実験なのかはハイライトの消えた瞳をしてる取手さんには聞けない。聞いたら最後どこに沈められるのか分かったものじゃないから。
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