第11話 栗葉、譲る

体育祭の予行練習は今日が晴天なのもあり順調に進んでいる。

俺は柔和な思いで.....そのプログラムが進む光景を眺める。

それから予行練習は取り敢えずは全てが終わり。

俺と長石と栗葉は泥だらけの中、戻って来た。

足の裏とか泥だらけだ。


「疲れたな。山本」


「そうだな。.....長石」


「.....まあ俺は頑丈だから疲れなんか一日で吹っ飛ぶとは思うけどな。アッハッハ」


「そいつは凄いな。お前の様な体力が欲しいわ」


まあ.....体力だけあっても仕方が無いだけだけどな、と苦笑いを浮かべる長石。

そんな会話をしながら教室で着替えていると。

コソコソと会話している連中が居る事に気が付いた。

俺と長石が話しているのが気に食わない様なそんな感じだ。

すると長石がキッと目を尖らせてその2~3人の連中に詰め寄った。


「おうコラ。気に入らないんならはっきり言ったらどうだ」


「チッ。うるせぇな。つうかお前、あのボッチと付き合い始めたんだな」


「は?何だその言い方。一人の奴に寄り添って何が悪いんだよ」


「おい!長石!」


仲裁に入る。

長石は、だけどよ、と言うが。

だけどこれ以上の騒ぎは起こしたくない。

俺は思いながら女子達も戻ってきはじめたしよ、と長石を止める。

だが長石を挑発する様にその男子生徒はまた話してきた。


「お前さ.....ボッチと付き合って楽しいか?お前もボッチって事だな」


「お前.....腹立つな。原田」


「喧嘩すんなって」


女子達がアワアワしている。

栗葉が寄って来る。

俺はそんな栗葉を見ながら.....長石に、どうどう、と言い聞かせる。

そして原田という男は悪態を吐いて去って行った。

俺はその姿を見ながら.....長石を見る。


「どうもアイツは気に食わない。俺は。.....つうかサッカー部の頃から気に入らないんだわ」


「.....落ち着け。喧嘩なんかしたらお前が停学とかになるぞ」


「.....優しいな。山本。有難うな。頭が冷えた」


「なら良いが」


長石は、ったく、と上半身が裸だった事に気が付いた様で服を.....ん?

俺はそんな長石に聞いた。

鍛えられた体中に数多くの傷が有るから、だ。

どうしたんだ、その傷は、と。


「.....ああ。これな。これ.....親父からの虐待だよ」


「.....何?」


「.....まあもうそのクソは病気で死んだんだけどな。だから誓ったんだ。そんなクソが居る中でも俺は.....心優しく生きるってな」


「.....お前.....」


長石君.....、と栗葉が呟く。

気にすんな、と長石は笑みを浮かべる。

そんな事実が有ったんだな。

俺は.....眉をひそめながら長石を見る。


「.....お前が優しい理由が分かったよ。長石」


「.....まあ.....当時は違ったんだけどな。でも母親の言葉で目が覚めたんだ。貴方は心優しい。弱いものを守りなさいって、な。.....確かにこれも関係して山本が気になったのは事実だけど.....お前は消えちまいそうだからな。当時の俺の姿みたいだった」


「.....!」


「.....だから声を掛けたんだよ。.....まあハズいけどな」


そこら辺の女子なら惚れているなコイツに。

彼女が居ないのが不思議なもんだ。

思いながら.....俺は長石に、サンキューな、と呟いた。

長石は、気にすんな、とはにかんだ。


「そしてあいつらの言葉も気にすんな。.....しょうもないから。.....そんな事を言っている俺がこんな感じではどうしようもないけどな」


「.....ハハ」


「.....でも助かった。山本」


「.....おう」


そして担任の教師が、お疲れ、と入って来た。

俺はその事に、座ろうぜ、と長石に促す。

長石は、だな、と手を挙げて席に戻って行った。

俺はそれを見送りながら席に腰掛ける。


「お兄ちゃん」


「.....どうした?」


「.....嬉しいね」


その一言を笑顔で言ってから。

自分の席に戻って行く栗葉。

何となくだけど.....その言葉の意味は分かった。

俺は笑みを浮かべながら。

そのまま窓から外を見つめる。



「お兄ちゃん。帰ろう」


「.....ああ。帰るか」


そんな会話をしていると愛花がタイミング良く?入って来た。

そして俺を見上げてくる。

一緒に帰りたいです、と言いながら、だ。

俺はその言葉に、えっと、と困惑していると。

栗葉が、仕方が無いな、と言いながら離れていく。


「私、今日、一人で帰る。約束は約束だから」


「約束って.....この前の?」


「うん。だから今回は愛花さんに譲るよ」


「.....栗葉.....」


愛花は目を丸くしながら栗葉を見ていた。

そして.....その事に愛花は栗葉に頭を下げる。

俺はビックリした。


まさか栗葉といい、愛花といい。

こんな行動に出るとは思わなかった。

そう思っていると人差し指を立てて栗葉は愛花に向いた。


「でも愛花さんに忠告。私は.....決してお兄ちゃんを譲るとは言ってないから」


「.....私だってその気持ちです」


「.....分かったならいいや。.....じゃあお兄ちゃん」


「.....有難うな。栗葉」


そして栗葉は頷いてそのまま栗葉は出て行く。

俺はその姿を見送ってから長石を見る。

長石は男子生徒と忙しそうに会話していた。

それを確認してから、じゃあ帰るか、と愛花に向く。

愛花は、はい、と柔和に頷いた。


「.....栗葉さんの事。かなり見直しました」


「.....そうだな。俺も」


「.....有難いです」


「.....だな」


それから俺達は帰る。

すると愛花が俺をモジモジしながら見上げてきた。

その、と言葉を発しながら、だ。

俺は首を傾げて見る。


「美術館に行きませんか。もし良かったら」


「.....今からか?」


「はい。もし良かったらです」


「.....分かった。.....どうせ暇だし行こうか」


俺は口角を上げて頷く。

愛花は顔をぱあっと明るくして大きく頷いた。

可愛い仕草だな、と思う。

髪をかき上げて嬉しそうにする姿とか、だ。

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