第10話 声を掛けてきた少年
体育祭といえば何を思い浮かべれるだろうか。
俺の場合は.....そうだな。
例えば俺の場合は.....幼馴染と徒競走を一緒にやった事。
そして栗葉、愛花と一緒に大会を成功させる為に色々やった事を思い出す。
あの頃の俺は簡単に言ってしまうと.....絶望だった。
今でこそ絶望だがあの頃は本当に.....悲しみに明け暮れていたのを思い出す。
本当に幼馴染に申し訳無かったと。
俺が事故れば、俺が下半身麻痺になれば良かったと。
そう思っていた。
その様に考えていると栗葉がやって来た。
「お兄ちゃん。はい。スポーツドリンク」
「ああ。有難うな。栗葉」
「.....大丈夫?」
「.....今はな、大丈夫だ」
応援席になると思われる場所で座っている。
栗葉は俺の右隣に腰掛けた。
横を見るとそこには栗葉が赤い鉢巻を巻いてそして整えた髪型で胸が強調される.....っていうかこれは仕方が無いが。
ズボン姿の体育着の栗葉が立っている。
俺は少しだけ見惚れながら.....目の前を見る。
栗葉は視線には目もくれず目の前を見ている。
「.....あそこで大縄跳びとかするんだね」
「.....そうだな」
「.....お兄ちゃんは.....確か障害物競走だよね」
「.....半ば強制的に決まったけどな。でも良かったよ。0と1では違うから」
そんな会話をしていると。
背後から、山本、と声を掛けられた。
俺と栗葉が振り返るとそこには黒の短髪の笑顔を浮かべている少年が居た。
顔立ちはかなり爽やかで非がない。
そして俺を見下す様子もない。
身長は俺と同じぐらいか。
一年坊主だと思うが.....何だ。
でもやっぱりからかいに来たのか?
と思ったがその少年は俺の左隣に腰掛けた。
そして手を差し出してくる。
「俺、ずっとお前に声を掛けたくてな。気になっていたから。あ、俺、長石拓哉(ながいしたくや)っつーんだけど宜しく」
俺は、お。おう、と言いながら手を握る。
ちょっと待て。
これはどうなっているのだ。
声を掛けたかった?
「.....長石。.....どういう事だ?」
「.....いや。何だか昔からお前の噂聞いたんだけどさ。お前って.....3年前の天才画家だよな?中学の時に大賞ばっか取りまくっていた。あまり気が付かなかった」
「.....ああ。確かにそうだな。元、だがな。今となってはしがない高校生だよ」
「そっか。.....あ、もし良かったら.....これ飲むか?」
差し出してきたのは有名な乳酸菌飲料のペットボトル。
俺は、これくれるのか、と長石を見る。
お近づきの印だ、と笑顔になる長石。
俺は栗葉と顔を合わせてから笑みを浮かべた。
そして俺は、サンキュー、と言いながら受け取る。
「.....んで。お前、障害競走だったよな?面倒臭くね?」
「.....まあ今の俺には活躍するのはそれぐらいしか無いしな」
「そっか。無理はすんなよ。.....どうせうちのクラスはサッカーの野郎とか居て最強だから」
すると栗葉が長石を見る。
それから、長石君は確か徒競走だったよね?、と会話する。
すると長石は、そうだな、と返事をした。
えっとな俺も同じだよ。山本と同じ様な活躍の場を失ったのさ、と話す。
俺は?を浮かべて長石を見る。
「それはどういう意味だ」
「.....そのまんまさ。俺、クラスに居るサッカー部員と同じ元サッカー部員なんだけどさ。エースだったんだよ。それが足の靭帯断裂で道が閉ざされてな。悩みまくったよ。.....もう泣きまくったよ。本当にな。お前と同じ様に活躍の場はこれしか無いと思ってな」
でもお前は良いよな、と長石は苦笑する。
俺は、何がだ?、と聞く。
すると長石は直ぐに俺の顔を見て答えた。
お前は絵が2度と描けない訳じゃ無いだろ、と。
俺は見開く。
「道が完璧に閉ざされた俺っちと違う。お前は.....絵が描けない事は聞いたがそれだけだろ?色々悩んでいるとは思うけどさ。描きたくなったら描けるんだから羨ましいよ。俺はもう2度とサッカーは出来ないけど。お前はやればまだ戻れるって事だから」
「長石.....」
「もう一度言うぜ。俺はもう2度とサッカーは出来ない。足が壊れたからな。.....だけどお前の場合は.....復帰を応援しているぜ。応援しないクラスメイトも居るけどな。俺は違う」
「.....お前の様な奴が昔から居れば良かったわ。長石」
「俺はこんな事しか出来ない野郎だよ。アッハッハ」
「長石君。有難う」
栗葉が感動したのか泣きそうな顔をしている。
オイオイ泣いてもらうと困るぜ?ハッハッハ、と笑顔の長石。
俺は.....自分の手を見る。
そして.....グーパーと動かしてみる。
確かにな。
「長石。お前.....何で俺に声を掛けようと思った」
「.....俺っちさ。.....コソコソするクソみたいなクラスメイトが嫌いなんだよ。お前を批判する奴がな。クラスメイトはクラスメイトなのによ。だから.....お前の事を気に掛けていたんだ。.....ずっとな。でもタイミングが無かったんだ」
「.....そうか。有難うな。.....話し掛けてくれて」
「今日がタイミングが良いかと思ってな。ハッハッハ」
長石は俺に笑みを浮かべる。
そして前を見た。
何だか自信が持てた気がする。
コイツのお陰といい、栗葉のお陰といい。
そして姫野のおかげといい。
愛花のお陰といい。
少しだけでも絵を描ければ。
それが恩返しになるのかも知れない。
思いながら居ると。
チャイムが鳴り響いた。
「おっと。行こうぜ。次、収集だろ?俺達」
「そうだな。行こう。栗葉」
「だね。お兄ちゃん」
「そういや.....山本は17歳だったな。.....ハッハッハ。すまん。完璧に俺より年上だな」
「.....気にすんな。俺は何がどうあれ結局は高校1年生だ。どんだけあってもな。気軽に山本で良いぜ」
俺は少しだけ悩みの晴れた顔で見つめる。
その事に長石は、そうか、と口角を上げた。
それから.....俺達は列に並んだ。
何だか空が.....澄んだ様に青く見えた。
久々に、だ。
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