第9話 幼馴染さんを探そう

例えばそうだな。

今の俺の状態を例えるなら。

絵の具を水の中に溶いてそして色々混ぜ合わせてぐちゃぐちゃに染まる感じだ。

それが俺の心だ。

色々な感情を絵の具の色に例える。


そして.....混ざってしまう。

黒に染まっていく。

俺は.....まだ迷惑を掛けている。

栗葉にも、愛花にも、姫野にも。


冗談抜きで.....俺は生きている価値があるのだろうかと悩む。

だけど栗葉は言った。

俺が生きている事で.....周りが支えになっていると。

ただ俺は.....その言葉に見開かざるをえなかった。


こんな俺でも.....支えになるんだなって思った。

その事に俺は目の前の栗葉を見る。

栗葉は俺を好いていると告白してきた。

嬉しそうに漫画を読んで遊んでいる。


「栗葉」


「何?道春」


「.....お前、何で俺が好きなんだ」


「.....熱で倒れて道春が私を看病してくれた日から好きだよ。道春の事」


「.....!.....ああ、懐かしいな。インフルだっけ」


そうだよ、と笑みを浮かべる栗葉。

そして栗葉は三つ編みを弄りながら赤面する。

懐かしい記憶だな。


インフルで冬に栗葉が倒れてからその事で.....俺達の仲が深まったのだ。

でもそうなのか。

その日から.....好きなんだな。

俺は思いながら栗葉を見る。


「私はとても嬉しかった。道春が私が冷たくしていたのに道春看病してくれて。必死に看病してくれた。だから好き。道春が大好き」


「.....看病してやっただけじゃないか。.....でも好きなんだな」


「女の子って恋に落ちるのは結構.....単純だったりもするよ?嬉しかった事とかね」


「.....そうか」


「.....だからこの恋が叶わなくても。道春の横に立っていたい」


涙が出そうだった。

俺は、.....そうか、と応えながら。

幸せを噛みしめる様な仕草をした。

本当に俺は幸せ者だな。


「道春」


「.....何だ。栗葉」


「.....私、幼馴染さんの事、詳しく知らないけど.....どんな女の子だったの?」


「.....どんなと言われたら.....そうだな。とても可愛らしかったよ。.....花の存在だったよ。俺にとってはな」


「.....そうなんだね」


今でも思い出す度にあの笑顔が俺の胸を締め付ける。

俺は.....あの子が好きなんだって今でも思う。

だから怖いんだ。

何もかもをまた傷付ける事を.....してしまうんじゃないかって。


「.....お兄ちゃん」


「.....何だ。栗葉」


「.....私ね。幼馴染さんは.....貴方の事を好いていたんじゃないかって思うの」


「.....は?」


「だって考えてみて。お兄ちゃんが傷付けてしまった。そして駆け出して行ったんだから。それはつまり好きだったから.....傷付いたって事でしょ?」


俺は見開く。

そんな考えにあまり及ばなかった。

それから顎に手を添える。

そんな馬鹿な事があるのか?

でもな.....どっちみちにせよ.....。


「.....好き嫌いがどっちにせよ俺は幼馴染を事故で下半身不随にした。これは避けられない事実だ」


「.....お兄ちゃん。その事なんだけどもし良かったらだけど.....幼馴染さんを探さない?」


「.....は?」


「いや。僅かな情報とかになっちゃうかもだけど.....探してから聞こうよ。幼馴染さんの思いを。どういう思いで居るのか。会いたくないって言われたらそこまでだけど.....」


「.....でも.....俺は.....」


でもお兄ちゃん。

今の一歩じゃ後退ばかりで何も進まないよ。

と俺を真剣な顔で見てくる。

これは私が貴方を好いているからとかじゃ無いよ。

と俺を見てくる栗葉。


「.....つまりどういう意味だ」


「.....お兄ちゃんが心配だから。真実を知って少しだけでも解放されてほしいの。自分の.....自分自身の呪縛から」


「.....でも栗葉。もし幼馴染が恨んでいたら.....」


「.....それならそれで。でもね。お兄ちゃん。このまま知る事とこのまま何も知らない事の落差って気持ちの負担とかはかなり有るよ。昔テレビで観たけどね.....。少しだけでも幼馴染さんの思いを知ったら.....お兄ちゃんの考えとかが変わる筈だよ。大丈夫。もし傷付いても.....私がしっかり受け止める。恨んでいたら恨んでいたでも。私はお兄ちゃんの傍に居るから。それに愛花さんも、姫野さんも」


「.....お前にこんなに責任を押し付けるつもりは無いんだが.....。お前は何も悪くないじゃないか」


俺は.....俯く。

でもお兄ちゃんの義妹だったんだから。

これぐらいは当たり前だから。


そして好きな人なんだから、と俺の後頭部を優しく撫でた。

それからゆっくり抱き締めてくる。

私は.....お兄ちゃんが心から好きだから、と。


「.....全くな。お前には敵わないな本当に」


「.....アハハ。こういうの全部お兄ちゃんに育てられたからね」


「.....すまん」


そして取り敢えずは。

俺達は幼馴染を探す事になった。

何の手がかりも無い中で、だ。

そして.....翌日になる。

5月20日。


2週間後に体育祭がある。

その為に俺達は練習をし始める。

そして.....俺は決意を新たに.....列に入っていた。

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