怒る栗葉、決意した心、変わりゆく世界

第8話 栗葉に吐露する思い

口に思いを含んで吐き出す。

たったそれだけの動作。

その事すらも.....出来なかった。


俺は.....帰って来て母さんが仕事に行ってから咽び泣く。

何故何時も何時も失望ばかりを相手にさせてしまうのだろうか、と。

こんな人間は居なくなった方がマシなんじゃ無いかと。


そう.....思ったりもする。

当然俺は自殺を試みた事もある。

だけど.....幼馴染が止めた。

死なないでよ。貴方一人で死なないで。私は貴方が.....好きなのに。

俺は.....その言葉にどんだけ衝撃を受けたか。


その時から。

俺は.....幼馴染の事が好きになった。

相思相愛だったと思う。

俺達は、だ。


だけどもう二度と俺達は巡り会う事は無い。

そして好きになる事も無いだろう。

だから俺は恋を捨てた。

もう二度としないと心に誓った。

そしてもう二度と女の子を傷付ける事はしないと。


だけど.....その時の思いをまだ引き摺っている様だ。

俺は.....栗葉に答えが出なかった。

何となくだけど察して来ている。


栗葉は俺が好きだという事に、だ。

それはきっと兄妹の時は無理だった感情だったけど。

今なら言えるという感情だろう。

俺は.....でもその想いには応えれないと思う。


だけど神様。

アンタって本当に無情だよな。

あんな栗葉の単純な質問すらも答えれない様にするとか。

俺は悲しくて仕方が無い。

ただ悔しい。


「.....何で俺ってこんななんだろうな.....」


涙が止まらない。

悔しいというか.....感情がぐちゃぐちゃだ。

だから.....涙が止まらない。

そして俺は立ち上がって.....自分をぶん殴った。


「.....」


目が、何かが覚める気がした。

だけどそれは気のせいだった様だ。

俺は.....血を吐き出しながら。

出血する唇を抑える。

そうしていると。


ピンポーン


「.....?.....はい」


『私!お兄ちゃん』


「.....栗葉?どうしたんだ」


『えっとね。遊びに来たの!』


玄関の扉の奥から声がする。

俺は出血している唇を、歯茎を抑えながら。

出て行くと。

栗葉は俺の顔を見て、え.....、と困惑した。

それから、誰かから殴られたの!?、と心配の声を上げた。


「.....いや。自分で殴ったんだ。色々あってな」


「.....嘘.....何でそんな事をするの!!!!?」


「.....お前には関係無いから大丈夫だ」


「関係あるもん!何でそんな事をするの!?お兄ちゃん!」


「.....栗葉。落ち着け」


これが落ち着いて居れますか?!

私が治療してあげる!、と直ぐに室内に入ってから。

そして救急箱を取り出した。

それから俺を心配げな目で見てくる。


「.....もう止めて。自分を傷付けるの。貴方は悪く無いから」


「.....何処をどう見ればそうなる。俺のせいだ。全部俺のせいだよ」


「.....そんな事をしたら悲しむ人だって居るんだから。お兄ちゃん.....」


「.....」


栗葉は涙を流しながら俺を見てくる。

お願い、と懇願しながら、だ。

俺はその姿に、分かった。少なくとも傷付けるのは止める、と告げた。

そして消毒液とかを取り出して治療し始める栗葉。


「.....本当は病院とか行った方が良いかもだけど.....滲みるよ?」


「.....こんな傷ぐらいで病院なんか行ったら笑われる」


「.....お兄ちゃん.....」


「.....栗葉。心配すんな。体だけは頑丈なんだ。俺は」


「.....でも.....」


私は.....お兄ちゃんが自殺するんじゃ無いかって不安.....。

と俺の手を握ってくる栗葉。

俺は.....その栗葉を見ながら、無いよそれは、と答えた。

死ぬ事が最大の贖罪になるとは思うけど死ぬなって言われたから。

幼馴染に、だ。


「.....栗葉。死ぬ事だけは無い。俺は幼馴染に死ぬなって言われているから」


「.....うん」


「.....だから自殺はしない」


「.....うん。でも万が一の事が.....あったらもう.....私は.....」


「.....」


そんな事になったら私も一緒に死ぬ、と告げてきた。

それは駄目だ、と俺は説教する。

お前は死ぬぐらいの事をしてないだろ、と。

すると、それはお兄ちゃんだってそうじゃない!!!!!、と反論してきた。

俺はビックリして顔を上げる。


「もう何で!?幼馴染さんの事でそんなに悩む必要が!?それぐらいで!?おかしいよ!お兄ちゃん!!!!!」


「.....栗葉.....」


「もしかしてこれ以上にお兄ちゃんは何か隠しているでしょ.....!?絶対にそうだ!お兄ちゃんはよく隠し事するもんね!義妹だった私は知っているんだから!!!!!」


「.....いや.....それは.....」


何も言えなくなった。

俺は.....目の前を見ながら消毒液の滲みる感じを受けながら。

栗葉を見る。

話してよ.....私は信頼出来ないの?、とシクシクと涙を流す。

俺は.....俯いてそして栗葉を見る。


「.....栗葉。良いか。これは誰にも話すなよ」


「.....うん。絶対に守る。お兄ちゃんの秘密は」


「.....好きだった幼馴染は交通事故に遭った。そして.....俺のせいで.....下半身不随になった」


「.....え.....」


「.....そういう事だ。何度死んでも足りないんだよ。俺は」


予想外の言葉だったのだろう。

ポロッとピンセットを落として悲痛な顔をして俯く.....栗葉。

そして、そんな.....、と呟く。

俺は、事実だ、と答えた。

それから天井を見上げてから呟く。


「俺は一生をかけて償っていかなくちゃいけないんだよ。栗葉。だからお前を巻き添えにしたくないし、これから先も.....誰も好きになる気はない」


「.....お兄ちゃ.....ん.....」


「.....御免な。栗葉。だから俺はお前を好きにはならない」


「.....」


分かった。

と立ち上がる栗葉。

だがその目には決意の眼差しが灯っていた。

俺は?を浮かべて驚愕する。

そして栗葉は消毒液を直してから俺を見る。


「.....じゃあ好きになってもらうから」


「.....無理だって言ってるだろ。栗葉」


「無理じゃないもん」


「.....どうしてそんなに自信がある」


「.....私はお兄ちゃんが心から好きだから、だよ」


俺は見開く。

そしてその姿を確認すると。

何故か.....事故に遭う前の幼馴染の姿と重なった。

俺は驚愕しながら.....目を閉じる。

そして開いた。


「.....お前を好きにはならないだろう。でも.....お前は頑張ってみてくれ。俺を振り向かせてみてくれ」


「.....うん。だから.....お兄ちゃんが大好き」


「オイオイ。それって告白か?」


「うん。大好きってそれはもう告白だよ。もう隠さない。お兄ちゃんがとにかく好きだから」


そして栗葉はニコッと笑顔になる。

俺はその姿に、.....そうか、と答えた。

何だか俺の心の中の静かに止まっていた歯車が動き出した様な。

そんな感覚に包まれた気がした。

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