描きかけの絵

第4話 描けない絵

俺、山本道晴には.....嘗て義妹が居た。

義妹とはつまりを言うと妹だ。

その義妹とは.....離婚をきっかけに離れ離れになった。

俺は.....ふとそんな事を思い出しながら歩く。


そして自宅に帰り着いた。

築23年のアパートに、である。

栗葉は家に来たいと言ったがそれは流石にと断った。


心配だった様だが、だ。

俺は、心配いらない、と断った。

そしてカンカンと音を鳴らして鉄階段を登り玄関を開けると母さんが立っていた。


「お帰り。道晴」


「.....ただいま。母さん」


「.....今日、学校行ったのね。偉いわね」


ニコッと笑みを浮かべる母さん。

母さん、山本神奈(やまもとかみな)45歳、はパートの職業に就いている。

身長160センチ。

そしてニコッと何時も笑んでいる整った30代と間違われるぐらいの若々しい顔。

俺に対して全力で愛を注いでくれる。

黒に白髪が多少混じった長髪だ。


何時もパート勤務の時間はランダムだ。

でも.....大体、お金を稼ぐ為に夜勤が多い。

その為、俺が帰って来る時には必ずでは無いが居る。

俺の頭を撫でてきた。


「.....道晴。無理はしてないかしら。今日の件といい.....」


「.....俺が行きたいって言ったかから行ったんだ。無理はしてない」


「.....そう。だったら良いけど.....休みたくなったら休むのよ」


俺の母さんはあの事件を知っている。

そう、身動きが全く取れなくなったあの日を。

その為に何時も心優しかった。

留年しようが何をしようが。

馬鹿にしなかった。


「.....母さんはいつも通りだね」


「私は学業は何年も掛けて取るものと思っているから。何年掛かっても良いのよ」


「.....有難いけど.....迷惑が掛かるから」


「.....そうね。確かにね。でも貴方が心配だから」


「.....母さん。言いながら撫でるの止めて。恥ずかしい」


何で?、とニコニコする母さん。

俺は嫌気が差しながらも。

母さんにされるがままになっていた。

俺は.....母さんが居なくなったら精神崩壊する。


多分だけど。

マザコンとかじゃない。

精神がギリギリで保っている様な状態だから、だ。

俺は.....考えながら通学鞄を置く。


「今日さ.....栗葉に会った」


「.....え?栗葉ちゃん。どうしたのまた」


「.....学校が一緒だった。彼女、高1だから」


「.....そうなの.....そうなのね。良かった。元気そうだった?」


「ばっちこい的な感じだったよ。ハハハ」


そうなのね。

良かった.....栗葉ちゃんがそんなに元気で。

お母さん嬉しいかも、と涙を浮かべる母さん。

俺はその母さんの背中に触れた。

そして目を閉じる。


「.....貴方は本当に良い子に育ったわね。道晴」


「.....母さんと父さんのお陰だよ」


「.....私達の予想以上に良い子に育ったわ。.....貴方は.....」


笑顔で涙を浮かべる母さん。

俺は頬を掻きながら、頷いて笑む。

そういえばお菓子が有るわよ、と母さんが腕まくりする。

そして、紅茶淹れるわね、と言った。


「良いのに。母さん。色々と勿体ない」


「駄目よ。今日は久々のお祝い。だからね。お母さんに任せなさい」


「.....分かった。母さんに任せる」


初めっからそうしなさい。

と笑顔で紅茶を淹れ始めた母さん。

俺はその姿を目で追いながら。


スマホを見る。

そこにはホットメッセージが入っていた。

アドレス交換した栗葉から、だ。


(道晴。大丈夫?)


(ああ。母さんも元気だし.....俺も元気になるよ。大丈夫だ)


(その名前聞いたの久しぶり。神奈さん。元気かな)


(何ら問題は無いよ。いつも通りだ)


(そうなんだ。うふふ。嬉しいな)


俺はその笑う様な文章に苦笑する。

そしてスマホを置いた。

すると今度はアドレスを大幅に消した中で姫野だけ残していたのだが。

姫野がメッセージをくれた。


(もしかして恋人だったり?この前の栗葉さん)


(違うよ。今は俺の.....義妹だ。数年前までの、な)


(え!?家族関係だったの!?)


(ああ。話して無かったか。俺と栗葉は家族関係だよ)


(それはまたスクープですな。ハッハッハ)


何処がスクープなのか。

と言うか何処にでもいるだろそういうの。

よく分からないけど、だ。

思いながら姫野にメッセージを打つ。


(姫野。今日来てくれて有難うな。嬉しかった)


(全然構わないよ。だって.....君のお姉さんだからね、私は)


(ハハハ。確かにな。世話になる。姉さん)


(うむうむ。ハハハ)


ところで.....話は戻るけど、と姫野は話す。

そして部活とかしてみない?、と聞いてきた。

私の.....美術部で、と。

俺はそのメッセージを読みながら顎に手を添える。


(美術部、部員が少なくて困っているんだよね。良かったら)


(でもな。俺ハブられるから)


(そんな事をしたら私が怒るから大丈夫だよ。君、絵得意だったよね)


(.....確かにな。数年前まで描いていた)


なんでしなくなったか。

それは.....簡単に言うと.....あの日がある。

だから描けなくなったのだ。

描きかけの趣味の絵が幾つも家に有るがあれを見るだけでも.....。

俺は思い出しながら少しだけ吐き気を催した。


「.....まだ.....辛いんだな。俺」


(.....姫野ゴメン。今は無理かもしれない)


(.....あ!良いよ!無理にしろとか言ってないし!大丈夫だから!)


(.....すまん)


そして俺はホットメッセージを閉じた。

頭痛がして吐き気がする。

マズイな、と思っていると母さんが俺の手を握ってきた。

そして顔を覗き込んでくる。


「.....大丈夫?」


「.....母さん。俺。まだ.....絵は描けないみたいだ」


「.....無茶な事はしないの。良いわね」


「.....うん」


正直、俺は絵が好きだった。

だけどそんな絵すらも.....あの記憶がかき消す。

俺は.....吐き気を抑えながら。

ケーキを食べた。

胃酸が逆流してきたからそれを宥める為に、だ。


「ゆっくり食べてね」


「.....美味いよ。母さん」


「うん」


そうしているとまたホットメッセージが入ってきた。

そのメッセージは.....栗葉。

今度.....その、もし良かったら道晴と一緒に行きたい場所があるんだけど、と来た。

俺は?を浮かべつつ、行きたい場所って?、と返事する。

すると、内緒、と来た。


「.....酷いな。意味が分からない.....が」


でも嫌な感じはしない.....な。

虚空にそんな呟きを残す。

そしてそのまま俺は紅茶を見ながら母さんに頭を下げてケーキを紅茶で流し込んだ。

やる気が.....出た気がした。

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