第5話 美術部だった時の同級生

「.....ふあ.....」


朝、スマホのバイブでゆっくり起きてから。

横で寝ている母さんを見る。

仕事から帰って来て.....そのままじゃないけどほぼそのまま寝た様だ。

本当に疲れているんだな.....って思う。


そういえば言っていたかどうか分からないが俺達は二階建ての一軒家を売った。

これは金銭面の事情によって、だ。

所謂.....税金とか掛かるしな。


その為に今俺と母さんはこのアパートに住んでいるのだが.....不都合は無い。

そもそも.....あの家が大きすぎたのかもしれないしな。

思いながら俺は立ち上がる。


そして俺は早速準備に取り掛かる。

何の準備かといえば簡単だ。

朝食を作る準備である。

母さんは夜勤で疲れている。

その為に俺が.....朝食を作るのだ。


「.....」


フライパンで卵が焼ける匂いを嗅ぎながらトーストをゆっくり準備する。

そして今日はついでにとインスタントコーヒーも淹れてみた。

それから.....インスタントコーヒーを一口、口に含んだ。


それらを準備する最中、母さんを起こさない様にラップをかけてそして顔を洗ったりして身だしなみの準備をする。

そして朝食を食べてから.....ふと昨日の事を思い出した。

昨日、姫野が言っていた事を、だ。


『美術部.....戻って来ないの?』


「.....」


俺は立ち上がって押し入れを開ける。

そして絵を取り出した。

そんなに大きなキャンバスでは無いが.....それに書きかけている絵を、だ。


心臓が跳ね上がる。

そして被さっている布を取ろうとして俺はまた吐き気に頭痛に襲われた。

俺は眉を顰めて悪態を吐く。


「.....やっぱり駄目か。畜生め」


そう呟き。

俺は絵を放り投げる様に片付けた。

もう俺は絵は描かないつもりだ。

じゃ無くて.....描けない。

恐らくこの先も、だ。


「.....」


そしてトーストを齧ってから食べてコーヒーで卵を胃に流し込む。

それから.....通学鞄を手に取った。

準備良し、オーケーだな。

思いながらまだ寝ている母さんに少しだけ笑みを浮かべて、行って来ます、と告げてそのまま外に出た。

鍵を掛けて、だ。



「道晴」


「.....何だお前。何でこの場所に居る」


歩き始めて2分。

丁度、学校への曲がり角付近にその三つ編みと栗の髪留めをした少女は居た。

俺を頬を朱に染めて見ている。

ビックリしながら.....そのまま言う。


「どうしたんだ」


「.....おに.....じゃ無くて道晴を迎えに来た」


「.....迎えにって.....学校で会えるだろ。同じクラスなんだから」


「それでも道晴と一緒に歩きたかったの!」


「.....意味が分からない.....」


良いの!。ふん!、と俺を不貞腐れた様に見てくる栗葉。

俺は盛大に溜息を吐きながらそのまま栗葉と歩き出す。

栗葉は俺をチラチラ見てきていた。

何だよ一体。

俺は思いながら居ると。


「髪の毛が飛んでる。少しだけ」


「.....ああ。整えたんだがな。すまん。格好悪い姿で」


「私が整えてあげる」


「え?いや良いよ。何を言ってんだ」


良いから。

そこの公園に行こ。

と背中を押さえれてそのまま連れて行かれる俺。

俺は、オイオイ、と思ったが。

栗葉に、良いから、と言い聞かされてそのままベンチに腰掛けた。


「.....もー。身だしなみは大切だよ?道晴」


「すまん。ちょっとボヤッとしてな」


「.....どうして?」


「.....絵だ。俺の昔描いていた絵を見てな。それで吐き気がした」


俺の髪を整えていた栗葉の手が止まる。

そして、そっか、と呟く栗葉。

道晴は絵が好きだったもんね、とも、だ。

俺は前を見ながら頷く。

するといきなり栗葉が抱きしめてきた。


「お、おい!?何をやっている!」


「.....さーびすだよ。道晴。何だか.....抱きしめたくなったから」


「胸が当たっているって.....お前」


「それもさーびすだよ。道晴」


俺の頭をただただ優しく優しく。

ただ撫でてくる栗葉。

俺は少しだけ恥じらいながらも。

そのお陰でボヤッとしていた気持ちが収まってきた。

栗葉は、嫌な気持ち収まってきた?、と笑顔を見せる。


「.....ああ。しかし本当に.....お前に出会えて幸せもんだな。俺は」


「.....そ、そこまで.....う、うん」


「.....栗葉。お前が義妹として来てくれたあの日を覚えているか」


「うん。あの日.....雪が降っていたよね。道晴にただただ無愛想で.....」


そこからここまで.....よくやって来たよな俺達。

と笑みを浮かべながら手を交差する俺。

栗葉は、うん、と頷きながら俺の頭を撫でる。

俺は.....目を閉じて開けた。


「.....栗葉が居なかったら俺は死んでいただろうな。多分」


「.....大袈裟だよ。道晴」


「いや。そんな事はない。周りの人達のカケラで集まって俺が出来ているから」


「.....そうなんだ。嬉しいな。そんな感じで言われると」


無邪気に恥ずかしがりながら笑う栗葉。

正直、この笑顔にどれだけ助けられたか。

何度も助けられた.....。

昔の記憶が蘇ってくる。

そして笑みを浮かべつつ見る。


「あ、道晴。学校行こうよ。時間マズイかも」


「.....そうだな。.....行くか」


「うん。行こう」


栗葉は笑顔で駆け出す。

俺も苦笑気味に走り出した。

そして俺達は公園のベンチから離れてそのまま学校に登校する。


だが俺はその日、衝撃を受ける事になる。

何が衝撃かって?

そうだな.....後々分かるが今言える事は一つ。

俺を美術部員として.....入れようとしている女の子が居た。

その子は.....俺が救った女の子だったのだ。




「道晴。ご飯を一緒に食べよう」


その様にニコッと満面の笑顔を見せて話してから持って来た通学鞄から弁当をゆっくりと取り出す栗葉。

俺はその姿に目を丸くする。

本当に弁当を作ってきたのかコイツは、と思いながら栗葉を見る。


「私.....道晴の為なら、だから。アハハ」


「.....そうか」


そしてその取り出した弁当を机の上に置き。

自らの椅子を持ってきてから俺に笑みを浮かべてそして青、赤という感じのその弁当の風呂敷を開ける。


そこには2つに重ねられた弁当が有った。

そういえば.....栗葉の料理を食べるのは久々の様な気がする。

以前にも食べた事があるから.....懐かしい。


「道晴?どうしたの?」


「.....お前の料理を食べるのが久々で嬉しい感じだ」


「.....!.....そうだね。確かに。でもあの時よりも遥かに腕は上がったよ?うん」


「そうか。そいつは楽しみだな」


そんな俺の笑みに少しだけ複雑な顔を浮かべた栗葉。

ずっと.....私は、と胸に手を添える。

俺はその姿に、そうか、と少しだけ目を逸らしながら答える。

そして俺は、まあ食べよう、と栗葉に声を掛ける俺。

すると栗葉がモジモジしながら俺を見てきた。


「お兄ちゃん」


「何だ。栗葉。.....またお兄ちゃんになってるぞ」


「あ.....えっと.....そうだね」


「.....まあそれは置いて。.....何だ?」


そうだね、うん。

えっと、お兄ちゃんって彼女さん居るの?、と直球でとんでもない事を聞いてきた。

俺は見開きながら、いや居ないが.....、と答える。

すると栗葉は顔を明るくしてから、そ。そうなんだ、と嬉しそうに向いてくる。

何だ一体?


「わ、私。頑張るね」


「.....???」


「た、食べよう。道晴。アハハ」


ちょっと意味が分からないが.....まあいいか。

思いながら栗葉特製の弁当を見つめる。

相変わらず彩り豊かの.....弁当だ。

俺は懐かしみながら楽しみに見ていると教室のドアがガラッと勢い良く開いた。

そして教室がザワザワとなる。


「え.....」


「うわ。誰だろう。相当な美少女.....」


「美少女だ.....」


そんな声が聞こえ?を浮かべて俺は人混みを見ていると。

その人混みを掻き分けてドタドタと音がして誰かが俺の手を握ってきた。

俺は驚愕しながらその人物を見てみる。


うるうると目を潤ませて俺を見ているその人物は.....柔らかそうなウェーブの長い黒髪にそして柔和な顔立ちに。

小顔でかなり整ったEラインも揃っている少女。

更に.....トドメにとても愛らしい雰囲気を出しているが.....って。

しかしこのウェーブは.....え。


「と、友崎か!?」


「はい。.....久しぶりです。はい!私.....ずっと待っていました。貴方が.....私の愛しい貴方がこの学校に来るのを!」


教室がカチンと固まった気がした。

俺も.....青ざめて固まる。

今何と言った.....私の愛しい.....?

目の前の栗葉もガチンゴチンに固まっている。

まるで氷で凍結した様に、だ。


友崎愛花(ともざきあいか)16歳。

俺の.....美術部の同級生の女の子だった女の子だが.....。

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