第2話 お兄ちゃん

俺、山本道春の名前は、道に春が咲く様に、という意味で名付けられた。

名付けてくれたのは親父。

亡くなった俺の親父の山本源三郎である。


大工でよく家を造るのを協力していたのだが現場で倒れてしまい。

そのまま病院に運ばれたが手の施しようが無く亡くなってしまった。

俺は当時としては衝撃であったのを覚えている。

いきなり脳梗塞になるとは思って無かった。


そしてそんな母さんは俺の為にと栗葉と栗葉の親父さんの高安さんと再婚。

当時としては珍しく、俺の側の苗字になり結婚生活はとにかく上手くいっていたがもろもろの事情で離婚に至った。

そして母さんと二人暮らしの今に至っている。

母さんは高安さんを愛していた。


だけど何か理由があって別れたかった様だ。

母さんの意図を追求する事はしない。

大人の判断だから、だ。

俺はその事を思い出しながら.....引っ越して行った栗葉の事を思い出す。

悲しげな顔をしていたのを、だ。


栗葉は俺と一緒に居たかった様だった。

でも離婚は離婚。

つまり一緒に居れる事は出来なくなり。

そのまま別れた。


文通とかすれば良かったと思う。

メルアドとか交換も無しでそれっきりだった。

理由は.....俺が拒んだのもある。


当時の俺は一発殴られていいような気がする。

栗葉を随分と悩ませた気がする。

その様に考えながらモグモグと焼きそばパンを食っていると。


「おに.....道春」


「.....何だ?栗葉。お前.....確か食堂で女子達と飯を食っていたんじゃ」


「うん。でも.....道春と一緒にご飯食べようと思って急いで食べてきた」


「.....いやいや。人間関係を大切にしろ。別に俺の事とか気にしなくていいんだが。俺は.....一人が好きだし」


そんな事無いと思うよ。

道春は.....お友達がちゃんと居たじゃない。

と栗葉は笑みを浮かべて前の席に腰掛ける。

そこには人が居なかったから、だ。

確かにあの卑怯者どもは友人だった、が。


「余計な事を。確かにそうだがまあアイツらは裏切った感じだしな」


「.....道春.....」


「.....でも決して孤独じゃない。お前が居るって事を知ったから」


「.....私が居るから?」


「ああ。お前が居るから。嬉しい」


そこまで言うと。

えっと、と呟いて真っ赤に、本当に真っ赤に赤面した栗葉。

それから頬に手を添えて嬉しそうにする。

さっきから何だこのオーバーアクションは?

意味が分からないな。


「み、道春は.....私と一緒だと嬉しいの?」


「私と一緒?それはつまりどういう意味だ」


「わ、私は.....道春と一緒だと嬉しい。だから再会が嬉しい」


「.....は?うん?え?」


「あ!わ、忘れて!」


意味が分からない。

何故.....こんなに真っ赤になったり否定したり。

俺は?を浮かべながら見る。

そして手元の焼きそばパンを食べた。

すると栗葉は俺の焼きそばパンを恨めしそうにジッと見る。


「.....どうした?欲しいのか?」


「違うよ。.....道春ってそんなに栄養の無い感じのものを食べてばかりなの?」


「.....全国の男子学生に謝れお前。駄目だぞ。そういう事を言ったら」


「ご、御免なさい。.....そういうつもりで言ったんじゃ無いけど.....も、もし良かったら.....その、わ、私がおべ.....おべ.....」


「おべ?.....いや、おべって何だ。ちゃんと言えよ。おべっかきとか?」


ち、違うの。違う。

その。えっと、と真っ赤になりながら俺をチラ見してくる。

ちょっと意味が分からない。

と思っていると大声で栗葉は言い切った。


「お弁当作ってきてあげる!!!!!」


「.....は?」


「.....お弁当!私が.....お兄ちゃんに.....!」


「.....栗葉。お前.....呼称がお兄ちゃんになってるんだが.....」


顔を引き攣らせる俺。

ハッとして周りを見渡す栗葉。

女子達が、え!?、と、キャーと言っていてそして男子生徒は固まっている。

これは栗葉、やらかしたな.....。

まさかそんな事も追加で言うとは.....。


「えっと、えっと、えっと。あの、その」


「.....栗葉。お兄ちゃんと言いたかったんだな?お前は俺の事」


「.....う、ぁう.....」


みるみる朱に染まる顔。

そして.....目をグルグル回す栗葉。

うぅ、と言いながらシュンとなった。

俺はその様子に苦笑気味に見る。

そうしていると教室に誰かやって来た。


「山本君」


「.....え?.....あれ。姫野。どうした?」


「クラスに登校したって聞いたから。だから早速来たよ。アハハ」


姫野漆(ひめのうるし)。

俺の元クラスメイト、高校2年生、16歳。

主に黒の艶の有る長い長髪にそして大きな目。

そして細い眉毛と顔立ちが整っており。

生徒会長でもしてそうな凛としている顔だ。

身長はそう無い。


しかしそんな姫野を見たのは数か月ぶりだな。

休んでいる間は見てなかった。

俺と仲が良かっただけあって来てくれたんだな。

でも.....コイツもきっと、と顔を顰める俺。

だが姫野は他のクラスにも関わらず入って来た。


「もー。心配掛けさせて。お姉ちゃんは心配だったんだからね?やまやまくん」


「.....まあ確かに今となってはお前は姉貴だな。.....ん?でも.....心配していたのか?俺を?嘘だろ」


「当たり前でしょ。貴方は私のクラスメイトだったんだから。友達でもあったんだから心配して来るの当たり前だよね?」


「.....そう.....なのか」


少しだけ俺は複雑に思いながら目の前に立つ姫野を見る。

すると.....栗葉が頬を膨らませてムッとして姫野を見ていたのに気が付いた。

俺は首を傾げながら栗葉を見る。

ムッとしていた栗葉が口を開き始めた。


「.....道春って仲が良い女子が居たんだね」


「え?まあな。友人は2~3人は居たから。仲の良い女子も居る。俺は一応リア充だったしな。でもそれが?」


「.....そうなんだ。ふーーーーーん.....」


「.....???」


何でこんなに栗葉はプンプンで機嫌が悪いのだ。

俺は訳も分からずのままほったらかしはマズいと思い姫野を見た。

姫野は栗葉に苦笑している。

何かを察して、だ。

俺はますます首を傾げずには居られなかった。

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