灯台下暗し

 月の明かりだけが照らす、真っ暗な夜の海。寄せては返す波の音がざぱーん、ざぱーんと響く。深い藍色の海から少し視線を外すと、背の高い塔が立っているのが見える。塔の上から明るい光がきらきらと注いで静かな海を照らす。

 灯台下暗し。遠くの海は照らすことができるのに、すぐ下を照らすことはできない。走ってみる。灯台の下に入ってみる。ほら、真っ暗。でも高い位置から見渡した海は月と灯台の光を反射して美しい。ふと空を仰ぎ見れば、星が瞬いているのが見える。大きく息を吸ってみれば、きんと冷えた冬の空気が肺に入ってくる。


 本題に移ろう。私が思うに、SMというものは灯台の下のようなものなのではないか。幼少時より暴力的なものに興味はあったものの、SMにたどり着いたのは高校も終わりになってからだった。暗いイメージがあるから、ちょっとよく分からないから。そうやって灯台が照らす明るい世界ばかりに目を向け、その下にも行かずに恋愛ものを眺めていた。普通の、女子高校生みたいに。でも気づく。私がこうやってSMにたどり着いたのって、自分の「闇」や「欲求」に素直になった結果なんじゃないか。自分をしっかり見つめた結果なんじゃないか。灯台の下が暗いことなんてみんな分かってる。そこに目を向けようとしないだけ。走ってみればいい。飛び込んでみればいい。苦しくて、辛いかもしれない。時には偏見の目にさらされるかもしれない。でもきっと、そこにはきらりと光るものがある。自分を見つめてそうして見つかった「本能からの欲求」を満たすことのできる場所がある。だから私は勇気をもって、荒波に飛び込んでみるんだ。何かを失っても、誰かに軽蔑されても、私は私だから。もっと、遠くへ、遠くへ。深い海の底へ。

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