第23巻 店が……動くんです
お店が順調に売り上げを伸ばしている中、僕はいくつかの仕事をこなしていた。
一つは新しい店員を迎え入れること。店員は合計で六名になり、もう僕自身は動き回る必要がなくなってきた。それともう一つは施設の拡張だ。
元々広めの土地だったので、面積を家一つ分くらい広げてみた。一階も二階も改築はすぐに終わった。なんと言っても、マンガ喫茶のコマンドですぐに完成できちゃうのは凄い。大工さんに頼まなくていいのはでかいよね。
それともう一つ、これは今日から始めた新サービスなんだけど、お会計した人にスタンプカードを配ってみることにした。
スタンプカードっていうのは、来店回数や時間に応じてポンポンスタンプを押していき、一定の回数に到達したら料金の割引とか、何かしらの景品を貰えるというサービスで、親父と僕が試行錯誤して閃いたものだった。
「すごーい! リーベルって、本当に賢いよね。これならきっと遊びにきてくれるお客様が増えるよ!」
シオリは偉く感動して、なぜか自分もスタンプカードを欲しがっていた。心なしか開店した当初よりも笑顔が増えてきて、まるでひまわりみたいな雰囲気を感じる。
「親父が沢山ヒントをくれたからだよ。僕だけじゃ全然浮かばなかったし」
「ううん! それでもリーベルは凄いと思うの」
首を振りながら肯定されて、なんだか照れくさくなってしまう。
「シオリさんの言うとおりっすよ! 全部リーベルさんのおかげです」
「いやいや、そんなことないよ」
カバーがカウンター付近でお菓子を並べながらシオリに同調してきて、僕は思わず苦笑いしてしまう。実際のところみんなが頑張ってくれているからなのだけれど。
「じゃあ、ちょっと僕はスタッフルームに行ってるから、何かあったら呼んで」
まだまだやらなくちゃいけない仕事は残っていて、結局忙しいことは変わらない。スタッフルームは二階にもあり、僕は大体そこを基本的な仕事場にしていた。窓から見えるアザレアの景色を見ながら仕事をすると、普段よりもずっと捗るからだ。
「そうだ。ステータスは何か変わったかな?」
ここ最近店の変化が激しいから、ちょっと確認してみよう。
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マンガ喫茶 Lv 65(+33)
名前:ブルーバード
所持設備Lv11
店員:6名
攻撃:3459
防御:3002
移動速度:601
サービス力:2178
魔法数:60
売り上げの詳細は【コチラ】
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うわー。なんか滅茶苦茶上がってる。ちょっと他のコマンドも見てみようか。
■施設拡張・追加
■マンガガチャ
■レイアウト変更
■店員募集
■ステータス確認
■ヘルプ
■移動
■???
ん? んん!? ……移動とかいうコマンドが増えてるんだけどなんだろう。幽霊を追い払った時以来、何があっても驚かないつもりでいたが、早速驚いちゃってる自分がいる。
『縦横、斜めの方角にマンガ喫茶を移動させることができます』
またあの謎のお姉さんボイスだ。僕にしか聴こえない、マンガ喫茶について説明をしてくれる親切な人の声。しかし、今度ばかりはもうちょっと説明がほしい。
「え!? お店動くの? ありえなくない」
『ありえます。試してみますか?』
するとテーブルの上が一瞬煌き、よく解らない機械のようなものが空中から降ってきた。これはなんだろうか。
「あ……なんか、十字っぽい」
よく見るとその機械みたいなそれには、コントローラーと文字が刻まれている。十字っぽいものが左にあって、右手にはいくつかのボタンがつけられていた。僕はそれを両手で持ってみる。
へえー。想像しているよりずっと軽いや。とりあえず弄ってみようかなと、上への矢印を押してみる。
ズゥウウン、という変な音がして、ちょっと驚いた僕は矢印を押した指をすぐに離した。
「な、なんだ!? 変な音がしたけど」
『マンガ喫茶が移動しました。キーを押している限り移動を続けることができます』
「え? 移動しただって?」
僕は驚いて窓を開いて景色を眺めるが、別段変わった様子はない……と思う。
「うーん。本当かなぁ。もう一回押してみようかな」
今度は上矢印を長押ししてみた。次の反応はとてもわかりやすく、また驚愕そのものだったんだよ。だって、本当に馬車よりも早い速度で、マンガ喫茶が動き出したんだから。
窓から見ているだけで一目瞭然の、上下にブレない真っ直ぐな突進。そしてあろうことか、しばらく先にあったはずの民家に激突しそうになっちゃった。
「う、うわああああ!?」
僕は慌てて上矢印から指を離すと、ピタリと巨大な建物の突進はストップする。そして不思議なことに、急停止で発生するはずの反動が少しも感じられなかった。
「やばい! 本当に動いてるんだけど!?」
これには狼狽えるしかなかったよ。だって自分達の土地をあっさりと飛び出して、建物がスイスイ動き出すなんて、普通ありえないじゃないか。呆然としていたら、誰かが小走りでスタッフルームに入ってきた。
「リーベル! た、たたた大変。お店が、お店が!」
振り返ると、あわあわしている幼馴染の姿が。まあそうなるよね。
「あ、ごめん。ちょっと移動させちゃった」
「ふぇ!?」
「戻せると思うんだよね。下を押せばいいのかな?」
今度は下矢印を押しっぱなしにしてみる。あっさりとマンガ喫茶は動き出し、今度は後ろへとズイズイ進んでいく。で、大体元と同じくらいの位置で下矢印から指を離した。
「うん。元通りになったね」
「そ……そうね。リーベルが動かしてたんだ。私、ビックリしちゃって」
「僕もさっき知ったんだよ。一体何に使うのか知らないけど」
「ま、マンガ喫茶って……奥が深いね」
「奥が深いというか、意味が分からないね」
流石にお客さんの心証も悪くしちゃったかもしれない。ちょっと不安になったので、店内を見回ってみると、案の定ビビってる人はいたわけで。
とりあえず、動かすこともできるんです……という意味不明な説明をするしかなかった。
しかしカバーはしきりに感心していて、
「リーベルさん! まるでお店が古代兵器になったみたいでカッコ良くないっすか! 俺興奮してきたっす」
なんてことを言っていた。古代兵器なんて僕はよく知らないけど、きっとこんな機能はないよ絶対。店の位置が変わってしまっているか確認するため外に出ると、大体位置的に一緒だった。
「もしかして誰か
でも、探してみたが誰も轢いてなかったし、とにかく結果的に問題なかったみたい。僕は大きくため息を漏らし、残った仕事をこなす為にマンガ喫茶に戻っていく。
なんだかんだ大変だけれど、刺激が多くて毎日が楽しい。
そして明日のお休みは、シオリとちょっと遠くへ遊びに行こうと誘われていた。仕事も休日も割と充実してきて、僕はヒナ達と冒険してきた日々が遠くに感じるようになっていたんだ。
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