第8巻 お店をカスタマイズしてみる
僕にとっての始めての挑戦がとうとうスタートしてしまった。
うまくいくのだろうかという不安と、何だか楽しそうだなという気持ちがないまぜになっている。
今眼前に広がる真っ白な建物に、これから沢山の色をつけていかないといけない。
決意とともに店を眺めていると、隣にいた幼馴染みが楽しそうに微笑を向けてくる。
「お店作り、今からとっても楽しみですね! 店長!」
「え? あ、ああそうか。でも、店長っていうのはちょっと落ち着かない呼び名かも」
「じゃあオーナー?」
「オーナーかー。うーん。なんか違うかな」
「じゃあご主人様」
「店の人って感じじゃないね……」
「リーベル団長っ」
「どこの団体だよ!」
「あはは。とにかくがんばろ!」
シオリの小鳥を思わせる声に押され、僕はとにかく作業を開始しようとした。だけどそこで、意外にもあの声がまた響いてきたんだ。
『まずはお店の名前を決めてください』
「あ、そっか! まずは店の名前だ」
「え? あ、そうね! まずは名前からだよね。リーベル、どんな名前がいいの?」
シオリに尋ねられて、僕は腕を組んで思案をする。
「カッコいい名前とかにしたいな……」
「あ! あるよ! リーベル喫茶ってどう?」
「カッコいいかな!? 僕の名前が入っちゃうの恥ずかしいかも」
「私はカッコいいと思う。看板にはリーベルの絵を描いてあげる」
「恥ずかしさで死ぬ! やめてくれ。あ、そうだ! カッコ良くはないけど、マンガ喫茶ブルーバードとかどうかな?」
アザレアでは青い鳥は幸福を運んでくると昔話でよく言われていた。だからあやかることにしてみたんだ。
「いいかも。なんか楽しいことありそうっ」
「よし! じゃあ名前決定!」
僕の掛け声と共に、空の上からまたお姉さんの声がした。
『店名をマンガ喫茶ブルーバードに決定しました。ステータス画面でいつでも変更できます』
「変更もできちゃうのか。よーし! じゃあ作業を始めていくか」
「はーい! 私にできることがあったら、何でも言ってね」
シオリもやる気満々みたいだ。動き出すと意外と行動が早くなっていくというか、わりかしスピーディーに進んでいる感じがする。
まずは建物の外観と内観に手を入れてみることにした。
シオリに相談役になってもらいつつ、ああだこうだと本棚や椅子、テーブルにカウンターなどを設置してみた。これがなかなか難しい。
マンガ喫茶の配置できるアイテム数が少なくて、なんかスカスカになってしまうんだ。今のままじゃほとんどお客さんの席が足りない。
「ちょっと……スッキリしてる感じだよね」
「だな。なんか、もう少し椅子やテーブルが増えればいいんだけれど」
「あ! じゃあ私、家具類を調達してこようか? 安く買えそうなお店があるの」
助かる。きっと初期配置だけだと足りなくなってしまうから、買い物は必須なんだろうね。
「ありがとう! じゃあ悪いけど、テーブル四つに椅子八つくらい注文しておいてほしい。金は僕が立て替えておく」
「はーい! あ、そうそう。食材とかコーヒーも必要だよね?」
「え? 何で?」
「だって喫茶店なんでしょう。料理とか飲み物も用意しておかないと、ずっと水だけじゃ長居できないと思うの」
言われてみれば確かに。喫茶店であり、マンガを読むだけじゃないんだった。
「うん。じゃあ、ホントに悪いけどそっちも頼む!」
「えへへ。行ってきます!」
ホントに気が利くなぁ。やっぱり初めてだと要領とか、やり方とかも全然慣れてない。ただ、この設置とか撤去っていうのは、自動的にスキルがやってくれるからとても便利だ。
さて、シオリがいなくなっている間に、もう一つやっておくことがある。外観をしっかり決めていかないといけない。
派手過ぎる外見にしちゃうとドン引きされる可能性はあるけれど、地味にしちゃうと本当にお客さんが来ない気がする。
『外観のパーツはこちらから選択が可能です』
すると色々な形と色をした屋根と壁がステータス画面にいくつも浮かんできた。とりあえず屋根の形は平べったくして、色は赤色がいいかな。続いて建物全体をクリーム色とかどうだろ。
僕が画面に出てくるパーツを引っ張って建物にあてがうと、パッと実際に外観が変化する。
「おお! 一気に変わるんだね。けっこういい感じかも。じゃあ次は看板だけど……ないよね? 看板」
『看板はこちらから選択が可能です』
看板もあるのか! こちらもけっこうな種類があるんだけれど、どれにしようかな。こういうのってセンスが問われる気がする。そのあたり僕にはちょっと自信がない。むしろシオリのほうが適任じゃなかろうか。
でも、こういう重要なところは自分で決めていかなくちゃいけないだろう。
「とりあえず、この看板を設置してみよう」
僕が選んだのは、一番シンプルな真っ白な横長看板。まずはお試しって感じだけれど、やはりというか地味である。確かにブルーバードと名前が入っているようだけど。
うーん、これじゃあちょっと地味過ぎる。
僕は他に良さげなものがないか、ステータス画面の中を探すことにした。
「お! これは……」
いくつか調べた中で、オレンジ色の正方形の看板に目がいった。サイズ感としても大きくてインパクトはバッチリ。いざ実際に設置してみると、丁度入り口ドアの真上に置かれた感じになった。
「いい! けどあれだなぁ。なんか壁が良くない気がしてきた」
もう一度外観の壁ラインナップを確認してみる。クリーム色の壁じゃなくて、もっとこうお洒落っぽいのないかなー。なんて探していると、またピンと来るものが。
「このレンガ調の壁がいいかも!」
実際にレンガではないみたいだけど、設置してみるといきなりイメージが変わった! 続いて屋根は三角型の黒色に変更する。これなら悪くない、と思う。でもどうかなー自信ないや。
「リーベルー。お買い物済ませてきたよっ」
「おかえりー。ありがとう! 家具とかは明日には届くのかな」
「ううん。店員さんがもうすぐ運んできてくれるって……」
振り返ると、弾んだ足取りで戻ってきたシオリがはたと足を止めた。
「わああ! とってもお店らしくなってきたね。ほんの一時間もしないうちにここまで変わるなんて! とっても素敵」
感動でワナワナしだす幼馴染み。うん、確かにこのスキルはお店を作るっていうことに関しては凄いのかもしれない。
でも、僕らにはまだまだ解決しなくてはいけない問題がいっぱいだったんだ。
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