第5巻 マンガ召喚

 この衝撃はきっと何年経っても忘れることはないだろう。

 あまりにも突然に建物が現れてしまい、我が目を疑ってしまった。


「ええー!?」

「きゃああ!? 何、何!?」


 僕もシオリもビックリだ。まあ無理もないよね。その建物は民家というよりはお店のような形をしている。


「ねえ、これってお店……なの?」

「うん……多分そうなんじゃないかな。今変な声が聞こえたんだよ。ここを拠点にしますか? っていう。返事をしたら同意と取られちゃったのか知らないけれど、それで出現したのかもしれない」

「は、はわわわ! じゃあリーベルの魔法ってこと?」

「そうなのかな? さっぱり解らないや」


 透き通るような青い髪をかきあげてテンパる幼馴染み。僕もかなりテンパっている。


「こうしていても埒があかないな。とりあえず中に入ってみようか?」

「う、うん!」


 とにかく二人で中を覗いてみることに。しかし一階建てのお店には本当に何もない。空家状態って感じのスッキリとした内装だった。


「本当に新築って感じだなぁ。広さ的には、元あった喫茶店と同じくらいか」


 もう一つ驚きなのは、外装も内装も真っ白な空間だったということ。


『コマンドウインドウを行いますか? マンガ喫茶の作成、営業を行うことができます』


「え!? マンガ喫茶だって?」

「きゃう!? え、えええ!?」


 突然の声に驚く僕と、それに釣られたシオリ。さっきからビビらせてばかりで申し訳ない。


「あ、ごめん。また変な声が聞こえたんだ。マンガ喫茶とか言ってたんだけど」

「まんがきっさ? 何それ」


 そうか。シオリからすれば未知の単語に違いない。僕と勇者パーティは知っている単語だが、他の人たちからすれば初耳なわけで。


「僕のスキル名だったんだ。つまり、これは……」

『コマンドウインドウを行いますか? マンガ喫茶の作成、営業を行うことができます』

「……はい」


 今度ははっきりと答えてみる。すると視界にはこんな文字が浮かび上がってきた!


 ■施設拡張・追加

 ■マンガガチャ

 ■レイアウト変更

 ■店員募集

 ■ステータス確認

 ■ヘルプ

 ■???


 これは一体……。まるで店を自分で作れてしまうみたいじゃないか。僕としてはまるっきり予想していない展開だったのだけれど、とりあえずは何かしてみようかと思う。


「施設追加を……」


『外装と内装、拡張したい方を選択して下さい』

「え、えーと……内装かな」


 すると今度はこんな画面が表示される。


 『どれを追加しますか? ※現在設置物がない為、レイアウトの移動、向き変更は行えません。また、マンガ喫茶Lvが上昇すると設置できるものが増えていきます』

 ■カウンター あと1

 ■本棚    あと7

 ■テーブル  あと4

 ■椅子    あと20


 これはどういうことだろう。今この場に物がないのに、選択したら現れたりするんだろうか。まるで召喚魔法みたいに?


「じゃあ……本棚を三つ……」


 言い終えて一秒も経たないうちに、目の前に本棚が三つ出現した。


「きゃああ!? い、いきなり本棚が出てきたよ?」

「うん。じ、実は今僕が本棚を選んだら、出てきたみたい」

「え? 召喚したってこと!?」

「そんな感じじゃないかな、多分」


 あまりの展開に心臓がバクバクする。もしかして僕のスキルって、戦闘じゃなくてこういう時に使用する感じだったのかな。


「じゃあ、本棚を移動で」


 すると心の中で念じた方向に棚がスルスルと移動していく。


「次はテーブル二つと椅子四つを」


 すぐにテーブルと椅子が現れた。なんてことだ。あっという間に図書館みたいになっちゃったぞ。本ないけど。


「凄い! リーベル。こんな力があったなんて」

「僕の力ってことでいいのかなぁ。それすらまだ怪しんだけど」


 何しろ唐突すぎる出現だったからね。しかし、このままレイアウト作りをしていても、何かが足りない気がしてくる。一体なんだろうか。


「この……マンガ召喚っていうのは?」


 今までの人生で一番の謎だったかもしれない部分が、今日になって解明される時がきた。すると親切にもまたお姉さんボイスがアドバイスをくれた。


『マンガを召喚するシステムです。単発、十連、百連を毎日一回ずつ無料で行えます。二回目以降はマンガポイントを消費します』

「マンガポイントって何?」

『マンガ喫茶での経営を行っていくことで貯まっていくポイントです。ステータス画面より確認をすることができます』


 また聴き慣れない単語が出てきたぞ。ステータス画面? あ、そういえばさっきチラリと見たような気がする。とりあえず、マンガ召喚っていうのをやってみようか。


「マンガ召喚の単発をしたい」


 声が室内に響いた後、室内が少しだけ暗くなり、床に青い光が走り始める。


「わああ。綺麗……」


 シオリが感嘆とした声を漏らす中、光はやがて魔法陣に変わり、天井と床両方に出現してクルクル回り出した。やがて青い雷みたいなギラつく光が走った後、空中に一つの本が現れる。


『★村人クロウの冒険 第一巻』


 光が消え去った後、空中に浮かんでいた本を手に取ってみる。何かの高明な書物だろうか。パラパラと中をめくってみると、驚くべきことに気がついた。


「この本……ほとんどが絵じゃないか!」

「え? あ、本当! 何か可愛い」


 シオリも僕もよく解らないままに、気がつくとその本を最後まで読んでしまっていた。絵が書かれている書物というのは確かに存在するけれど、ここまで文字が少ないものは見たことがない。


「ちょっと待って。マンガ召喚、十連!」


 たしか十連っていうのも一日一回無料でできるとか説明されてたはず。そうするとさっきと同じように光の魔法陣が現れるが、スケールが増しているのは一目両背然だった。そして、今度はなぜか赤枠の魔法陣になってる?


『★村人クロウの冒険 第二巻 ★★勇者ハルハル航海記 第一巻 ★★悪役令嬢に転生して六百年後 第一巻 ★★海賊oh! 第一巻 ★★恋の百連魔法 第一巻 ★★★誰でもできる王宮料理 第一巻 ★★★★幼馴染が帰ってくるなり私に…… 第一巻 ★★★★あ 第一巻』

『え、えええー。リーベル! とっても沢山出てきたよっ」

「凄い。十連っていうのは、マンガを十冊召喚するっていうことらしい」

「じゅうれん!? あ、確かに十冊あるねっ」


 あ、そうか。シオリには僕と同じように光の文字が見えているわけじゃないのか。とすると、僕にだけ見える画面ってことになりそうだ。

 それにしても本当に十冊も出てくるなんて。僕らが呆然と眺めているとあら不思議、本はスーッと空中を移動して本棚に収まっていく。


「ねえ……あの星マークって何?」

「うーん。ちょっと待っててくれ」


 僕は視界に表示されているヘルプを見てみる。


「どうやらレアリティのことらしい。星マークが多いほど貴重な本らしいよ」

「え! じゃあさっき四つの本とかあったよね。かなり貴重なのかな」


 一体レアリティってどこまで存在するのだろう。さて、ここまでやってしまったらからには、行わずにはいられないことがある。


「ここまできたら一番凄いのをやってみるか。百連召喚!」

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