第71話

「こっちが魔香用のハーブ、こっちが薬にする草、これが解毒剤を作るための毒草ね」

「おお……どれもこれも見たことねえ奴ばっかりだな。これ、全部もらっていいのか?」

「もちろん。ボクならすぐに採ってこられるからね。自由に使ってくれたまえ」


 では早速……と俺は毒草をパイプに放り込んで火を付けた。


 ずしんと体を震わせるほどの濃密な味……かといって、後味は悪くなく心地よい感覚が脳を刺激する。


 ――『騎乗』を習得しました。


 久しぶりに聞くその声。やはりそうだ、龍神族の里の周囲には『樹の魂』が実るものが多く残ってるんだ!


「不思議な香りだね……甘いような、爽やかな、素敵な香りだ」

「これが俺のスキル『ハーブマスター』の効果だよ。どんな草でも魔香にして力を得られるんだ」

「へえ、それはすごい! この樹海においては最強の力じゃないか!」


 そんなわけで、俺は目の前に広げられた草を片っ端から魔香にしていった。


 魔香用のハーブはカルアが喜びそうな極上のものばかりで、薬にするという草からは治癒力の増加や属性耐性の効果が受けられた。守りに徹したものばかりなのは土地柄だろうか。


 ――『菓子作成』を習得しました。

 ――『浄化』を習得しました。

 ――『雷の制裁』を習得しました。


 毒草でもないのに、止まらないアナウンスの連続。『菓子作成』や『浄化』は分かるけど、『雷の制裁』はよく分かんねえな……。


「ロアナ、すげえよ。ここの草たちは、どれもこれも強力な力を持ってる! よかったら、後で種も見せてもらっていいか? 自分で再現できるか試してみたいんだ」

「そ、そんな事まで出来るの? 別にいいけど……何だか、リーフ一人で何でもできちゃいそうだねえ」


 どこか呆れたような声には、即座に首を左右に振ることになった。


「いや、俺が得られるのはただの才能……種だ。剣術じゃメリッサに敵わないし、魔法じゃマリンに勝てねえ。探索や狙撃の腕でトゥイと競おうとも思わない。だから、俺にはやっぱり仲間が必要なんだよ」

「ふうん……羨ましいな、そういう関係……」


 ロアナはどこか寂しそうに笑う。だからつい、こう言ってしまった。


「なら、お前も来るか?」

「えっ……?」

「俺に適性って奴があれば、龍神族と契約できるんだろ? なら、俺と契約しちまえよ」

「リーフ……」


 何度も口を開けては閉じて、しばし考え込んで……ロアナはやっぱり快活な笑みを浮かべた。


「そりゃできないな。ボクにはこの里から離れられない理由がある。一生かけても返しきれない負い目って奴がね。だから、薬師って道を選んだんだ……冒険者じゃなくてね。楽しい冒険には興味があるけど、ボクが居なきゃこの里は成り立たない……誘ってくれて嬉しかったよ。ありがとう、リーフ」

「何だ、残念だな……龍神族との契約、興味あったんだけどな」

「安心してくれ。ボクに考えがあるからね。きっとその要望には応えてみせるよ」


 そんな会話をしながらも、魔香の試し吸いは続いていく。そして、毒草が最後の一枚になった。


「その草はリュウゼツと言ってね。本来は綺麗な花を咲かすものなんだ。だけど、本当に時々花を咲かせず毒草になってしまうことがある。そうなると、龍神様でも死に至るんじゃないかって程の毒を持つ。危険だから焼き払って数枚手元に残しておいたけど……そんなわけで、滅多に手に入らない毒草だよ」

「いいね。そりゃ期待できそうだ……じゃ、いただきます」


 俺はその猛毒を含むという毒草をパイプに入れて、少し身構えつつも一吸いする。


 その瞬間、全身に快感が満ちた。新鮮で強烈な力が血に巡り脳に巡り、生命の根源とでも言うべき場所に破裂せんばかりの力が籠もる。


 ――『龍魔術』を習得しました。


「龍魔術……」

「む? もしかしてお主……龍魔術を習得したのか? その、ハーブなんとかの力で……」

「知ってるのか? どうもそうらしいな。まあ、力の切れ端みたいなもんだけどさ」

「それは、本来龍神族と契約した際にもらう力だ。困ったな……これで、よりリーフ殿にお返しできるものが無くなってしまった」


 本当にグレイは義理堅いな……戦争の手伝いをしてくれるだけで十分だってのに。だけど、そこには龍神族としての矜持もあるのだろう。


「この龍魔術では何が出来るんだ?」

「そうだな……まず覚えるべきは『龍眼』だろう。魔力の流れがよく見えるようになる。その次が『龍牙』だな。手を龍の鉤爪に見立てて砕く。この二つを習得するだけでも、素手での戦闘の世界が変わるぞ」

「へえ……その先もまだあるってか。こりゃいいモンもらったな……」


 まあ、一回使っただけで消えなければ、の話だけどな。


 さて、あらかた魔香にし終えたし……そろそろ動くか。そう思って立ち上がった俺に、ロアナがこそこそと近づいてきてにんまりとした顔で告げた。


「キミ達が戦いを終えるまでに、とっておきの報酬を用意しておくから、頑張るんだよ」

「ははっ、そりゃ楽しみだ。じゃあ……勝ってこないとな」

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