第69話
俺はロアナと二人でトゥイとマリンを待っていた。これからの活動拠点は龍神族の里になるだろうから、その迎え役だ。
「でも、本当にいいのか? 龍神族のしきたりとか……」
「大丈夫じゃないかい。だって、元より結界を越えてきた人間は一族に認められるんだ。だから、リーフは歓迎されてしかるべきだし……セシリアは一族の恩人だ。命を助けてもらったばかりか仇とやり合ってるっていうんだから、皆やる気十分さ」
そんなもんか……と視線をまた正面に戻した。そんな俺を追いかけるように、ロアナが言葉を続ける。
「偽聖女だとか真の聖女だとか、そんな事はボクらにとってはどうでもいいんだけどね……都市を浮かばせてやった龍神族を裏切ったヒーローは許されない。しかし、大丈夫なのかと尋ねたいのはこっちの方さ。リーフ、キミにすごい力があることは分かる、けど……一国なんてものを相手にして大丈夫なのかい?」
俺はその問いに何と答えたものかと考え込み、パイプを口に咥えて魔香を詰め、プチファイアで火を付けた。
すぐに紫煙がたゆたい、吸えば極上の香りが鼻を通る。
「……誰も頼りがいないってのは、辛いからな」
「そ、それが理由なの?」
「もちろん、こっちの見返りも十分にあるさ。だけど、独りでいる奴を見捨てちまったら……俺が俺じゃなくなっちまう。ただ後悔の無い生き方をしたい。それだけだよ」
「へえ……人間にしては珍しい心がけね」
「美味い酒と魔香が欲しいだけさ。働いた後こそ味わい深いんだ」
それに……とまた魔香を一吸いして続ける。
「世界樹を目指す前に、味方は増やしておきたいからな。どこにどんな情報が眠ってるか分かんねえからさ」
「ほう! キミは世界樹を目指してるのかい?」
ロアナは目を見開きパチクリと驚きの様子を見せた。笑われたのかと思ったけど、違うらしい。
「何だ、もしかして何か知ってるのか?」
「知ってるも何も……かつて世界樹を見つけたのは龍神様が同行した勇者達だよ。その功績のおかげで今の龍神族があると言っても過言じゃないさ」
「なっ……龍神族が!?」
世界樹。『神の力』が全て集まった時に生まれるとされる世界樹の勇者。『災害』が魔王を生み『神の力』が勇者を生む。
だから、セシリアを味方に付けたいのにはそういった理由もあった。一歩でも世界樹に近づけるなら、と……。だけど、まさに生き証人がいるとは思ってもいなかったのだ。
「そ、その龍神様って奴に会う事はできるか?」
「無理無理。だってもうとっくに死んじゃってるからね。龍神族が長命になったのも龍神様のおかげでさ。当の龍神様の寿命は短かったんだよ。でも、その記録くらいは残ってるかも……」
「み、見せてくれ! 世界樹は俺にとって夢なんだよ。いつかちゃんと冒険者として成り上がれたら……目指したい」
俺の圧に若干戸惑った様子を見せたロアナは押し黙り、言いづらそうに唇を尖らせた。
「ボクの一存じゃ……一族の宝だからね。でも、今回は皆ヒーローを明確な敵として動き出してる。そこで大きな助けになれたら……読ませてもらえるかもしれない、かな?」
「なるほどな。それなら絶好のチャンスって奴だ。やることは変わらないのに、報酬が増えるなんてな……やっぱりヒーローは、俺が討つ!」
改めて決意した所で、トゥイ達が『天の螺旋』から降りてくるのが見えた。ひとまず話はここまでだと二人を迎える。
「首尾はどうだった?」
「はい、問題ないと思います。兵器も壊して来ましたし、レジスタンスの存在もさりげなく広めてきました!」
「……さりげなく、ねー」
ぼそりと言ったマリンの声が気になりはするけど……まあ、兵器を一旦引っ込められたなら良い。あくまで今回俺達は、兵器を目的とした第三勢力でいなきゃいけないのだから。
「それじゃ、ボクに乗って。龍神族の里まで案内するよ」
「へっ? 龍神族の里って……何があったの? まさか本当に認められちゃったり?」
まあ、その辺も追々説明するとして……まずは全員で情報共有とこれからの指針の話し合いだな。
ドラゴンの姿を取ったロアナが足に籠を装着し……そこに俺達は乗り込んだ。大人数を運ぶ時はこうして飛ぶらしい。ここ数十年は使われなかったらしいが……。
「……すごいものですね。人が空を飛べるなんて」
「海の中だったらわたしも案内できるんだけどねー。でも、空を飛んできたなんて言ったら皆驚くだろうなー」
そんな二人の反応もよく分かる。樹海の木々を飛び越えて見たこともないほど明るく蒼い空を裂くように舞うことができるなんて……また、土産話が増えたな。
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