第64話

 そうと決まれば話は簡単だ。俺達は誰の味方をするわけでもない。だけどそうなると……どうやってあの天空都市、聖ノ国で活動するかだ。


 方々にケンカを売って階段を塞がれたらそれで終わりなんて、馬鹿らしいにも程がある。


「リーフ様、それではドラゴンを探しに行くのはいかがですか?」

「ん……あの蔓龍みたいな奴か?」

「いえ、『災害』に比べれば可愛いものですよ。聖ノ国が唯一空に住む人間の国だとしたら、唯一空に住む魔物がドラゴンです。かつては手懐けて樹海を飛び回る者も居たと聞きます」


 へえ……そりゃ、爽快だろうな。


「だけど、そう時間をかけてはいられないぞ。ドラゴンの住処ってのはどこにあるんだ?」

「そうですね……ここから一番近くても、片道で二ヶ月くらいは……帰りはドラゴンに乗せてもらえばいいのですぐだと思うのですが」

「二ヶ月か……ダメだな、時間がかかりすぎる。その間に戦争が始まっちまえば元も子もないぞ」


 だけど、確かに移動手段は必要だ。思い悩む俺達に、セシリアが恐る恐るといった風で提案する。


「それなら、龍神族の里が近くにあるわよ。並大抵の人間じゃ近づくことすらできないけど……リーフならいけると思う。聖ノ国を浮かせたのも龍神族の仕事なの。もし彼らに認められたなら……きっと力になってくれるわ」

「龍神族……あんな大地を浮かせるほどの力の持ち主なのか! なら、セシリアもそこを頼れば良かったんじゃないか? 自分達で作った国が危ねえってのに見て見ぬフリするわけにはいかねえだろ。そこに聖女のお前が行けば……」

「無理ね。龍神族はあくまで設立の際に契約を以てして手伝ってくれただけ。その後の運営なんて気にしてないわ」


 セシリアはどこか悔やむように答える。そんな簡単に話が進むならとっくにやってるって話か……そりゃそうだ。他に頼る伝手がないからセシリアは帝都まで来たんだもんな。


「トゥイ、龍神族については何か知ってるか?」

「そうですね……人とドラゴンの姿を取れる種族です。人でもなく、魔物でもない。そんな特異な生まれ故に独自の文化が築かれています。セシリアも言った通り、ウッドエルフのような隠れる結界ではなく、尋常な魔力では耐えきれないほどの攻撃的結界が張られているはずです。『結果を抜けて自分達のもとまでたどり着ける者なら話くらいはしてやろう』というのが基本のスタンスだったと記憶しています」


 トゥイは視線をさまよわせながら教えてくれた。さすがウッドエルフ。樹海においては生き字引だな。


「じゃあ、頼りは龍神族か……『蔓龍の皮膚』が通じれば俺だけは通れるはず。その間、開戦を引き延ばしたいんだよな」


 しばし考えて、これしかないか……と作戦を持ち出した。


「今度は全員で聖ノ国に乗り込もう。そのくらいの手札がいる……聖ノ国の敵は俺達だって示さないといけないからな。警戒すべきは反乱軍の兵器、国王軍の動きを止める事、そして……ヒーローだ。こいつだけは、俺が相手する。それぞれの部隊にそれぞれの相手を用意するんだ。また皆を頼ることになるけど……」

「何よ、今更。あんたの作戦で無茶じゃなかった事なんかないでしょ。それでもどうにかやってきたんじゃない……あたしも一人で帝都まで頼りを探しに来たセシリアは認めてるのよ。そのためなら、何だってするわよ」


 それに、とメリッサが大剣に手をかけてニヤリと笑う。その様はまるで遊び相手を見つけた少女のようだった。


「帝都祭くらいじゃ、思い切り戦えなかったのよね。安心しなさい、殺しまではしないわ」

「そりゃ頼もしいけど……多分、メリッサは今回、何も斬る事はないぞ」


 そして俺は、それぞれへ作戦を伝えた。理論上は可能なはず……だけど、どこまで効果が出るかはやってみなければ分からない。そんな内容だった。


 それを聞いた一同は……開いた口がふさがらない様子で、そして笑みを漏らした。


「リーフ様は本当に強引ですね……下手をすれば、他の国まで巻き込みますよ?」

「わたしは大丈夫だよー。むしろ、大歓迎。ウィンデーネの恐ろしさって奴を、じっくり教え込んでやるんだから!」


 トゥイとマリンはやる気も十分なようだった。マリンに関しては喜びを表すように水色の羽衣が揺れている。


 一方で、セシリアは顔面蒼白でメリッサもどこかふてくされたような顔をしていた。


「そ、そんなやり方で……戦争は止まるの?」

「あたしは完全に非常時しか動けないじゃない。両軍の武器を全部たたき切っちゃえばいいんじゃないの?」


 だが、こちらの不満はそれぞれ別方向に向かっていたようだった。


「相手の数は万単位だぞ。しかも、単純な武器数だけでいうなら十万を超えるだろう。それを全部破壊してる間、他の奴が黙ってるわけない。だけど、使い手を封じれば武器を壊す必要すらなくなるのさ」


 その逆もしかりってな……と話を結ぶと、皆は一応納得してくれたようだった。


「それじゃ、俺は龍神族の里に行ってみるよ。まあ、俺もこの策だけで解決できるなんて微塵も思ってない。あくまで時間稼ぎだと思ってくれ」

「はい。邪魔するだけにとどめて、私達は姿を出さなくていいんですよね?」

「そうだ。だから、危険を察知したらすぐに逃げ出すようにな。セシリアの交渉が上手くいけば浮島内にいられると思うけど、そっちも可能性は薄いからな」


 もし樹海まで追ってくるようなら話は楽なんだけど……きっと奴らはそれぞれの浮島を死守するだろう。だから、俺はこれといった心配はしていなかった。


「作戦開始だ。俺もなるべく早く戻ってくるから、よろしくな」


 そうして俺は皆に見送られて、教えられた龍神族の里に向かって歩を進めるのだった。

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