第34話、其のメイド……親子喧嘩の愚痴を聞かされる
「勇者様の支援ってからには、パーティー全員を支えさせていただくのが本当の使命なんですよ」
「そんなこと、定吉さんは一言も……」
「もちろん、利益があってこその支援ですから、商売は商売として成立させて、そのうえで支援させていただきます。
だって、魔王討伐の間は、生活費だってかかるでしょう。
パーティーメンバーの方が、稼ぎ頭だった場合、家族はどうするんですか」
「そ、そんなこと、考えてもみませんでした……」
「定吉さんと、戸塚の議長さんとで考えて、全部の町に勇者様支援の施設を作ろうってところから丸子屋が生まれたんですよ。
だから、安心してください。
深雪さんのお母さんは、丸子屋で責任もって面倒みさせてもらいます。元気になったら、ここで働いてもらえばいいですよ。
なんたって、マルコさんが新しい商品を考えるたびに人手不足になるんですからね。
一昨日のアジフライにイカフライ、タコ焼きとお好み焼き。これだけで二人は増員してるんですから」
「そ、そうだったんですか……ごめんなさい」
「いやいや、町としても働き口が増えるのは大歓迎ですよ。
だから、深雪さん、安心してお出かけくださいな。
お母さんのことは丸子屋にお任せください」
「は、い。……お願いします」
「勇者パーティーの方が泣くのは、魔王を倒してからですよ。
さあ、帰って引っ越しの準備をしてくださいな。
荷物は、うちの若いもんに運ばせますから。
おっと、これ帰ってお母さんに食べてもらってください」
「これ……は」
「プリンとイチゴのクレープですよ。
プリンは病人には最高の栄養食ですし、クレープはビタミンもとれやすからね」
「あ、ありがとう……ございます……うわーぁん」
深雪さんが私の胸で泣いています。
私もちょっぴり涙が出てきました。
定吉さんと先生に感謝です。
そして翌日、組合で鎧のフィッティングをしているところへ、深雪さんがやってきました。
「昨日はありがとうございました」
「プリンはどうだった」
「それが……」
深雪さんが顔をそらせます。
「どうしたの?」
「三個入ってたんですけど、母さんが美味しい美味しいって……」
「そう、よかったじゃない」
「よくないですよ。
私がお茶を入れている間に全部食べちゃって……」
「それだけ食べられれば安心ね」
「クレープも3個入ってたんですけど……」
「うん」
「どっちが二個食べるかでケンカになっちゃって」
「いいじゃない。また持って帰れば」
「ああ、美味しかったです、クレープ」
「お母さんに二個食べさせてあげたんでしょ」
「とんでもない。病人にそんなに食べさせたら毒ですから、私が二個いただきました。
だから、夕べから険悪になっちゃって……
母さんたら、こんな親不孝娘はとっとと魔王退治に出かけろって……」
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