第二章 勇者として

第26話、其のメイド……壁画になる

大五郎はそのまま二日間眠り続けています。


「案ずるな。

突然あのような形で雷撃を放ったのじゃ。

心と体が驚いているのだろう」


「雷撃……ですか」


「普通の者は火・水・風・金そして大地の属性を得ることができる。

そして、それらに属さない雷の属性は勇者のみが持つ力じゃ。

普通は、剣に乗せて放つといわれてきたが、あのような使い方があったとはのう」


「あのようなとは?」


「鉄の球に雷を纏わせたのじゃ。

ふむ、とすると、雷撃を遠隔で放てることになるから、魔王にも有効やも知れんて」


「魔王には雷撃が有効なのですか?」


「逆にいえば、雷撃しか効かないと言われておる。

じゃから、魔王討伐は勇者にしかできんのじゃよ」


「大五郎にしか……」


「そういうことじゃ。

それ以外の者は、いかにして勇者と魔王が一騎打ちできる状況を作り出すか。

勇者を温存できれば勝ち、勇者を消耗させてしまえば負けじゃよ」




その日の夕方になって大五郎は目を覚ましました。

私の心配を他所に、第一声は「腹減った」です。


ちょうど新作のチーズ入りハンバーグを焼いていたのですが、いきなりご飯は食べずに単品で5個も食べてまた眠りにつきました。

ちなみに、草履サイズの大きなやつをです……




翌朝、妙子さんが駆け込んできました。


「どうしたの?」


「いいから、ちょっと来て」


妙子さんに引っ張られて要壁までついていくと、壁一面に書かれた絵が……

スリングショットを構える大五郎と、後ろから支えるメイド服姿の私の絵が、壁全面に描かれていました。

黒と薄墨で書かれたのでしょうが……


「だ、誰がこんなものを……」


「夕べ一晩で書き上げたらしいのよ」


「恥ずかしいんですけど……」


「これだけの事をやったんだよ、あんた達は」


「そ、そんな……」




文殊もんじゅよ、例の絵、評判になってるみてえじゃねえか」


「わし、書道の文殊菩薩……」


「水墨画だって、書道の一貫だろうよ」


「そうだけど、菩薩ってのは仏であって、タケミカヅチみたいな神じゃないんだから……」


「神仏融合つってな、日本じゃごっちゃになって区別できねえんだよ」


「区別できるつーの。わし、祀られてるのはお寺だかんね。

神社じゃないから」


「お寺に行って、宮司かんぬしさンおられますかって時代だぞ」


「その話は聞いたことあるけど、逆はないよね」


「確かに、神社行って住職おぼうさんはねえか……

でもな、神界も彼岸ほとけのせかいも大した違いはねえと思うよ」


「違ーう。神は悟りなんて開いてないっつーの!」


「おっ、それって名誉欲だよな。煩悩が出てるじゃんよ」


「うっ……」

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