第7話、其のメイド…色即是空を説かれる

アマンダさんに連れてこられたのは、約3mほどの空間で、そこを取り囲むようにヤシの木が生えている。


「じゃあ、この木を登るんだ」


「は、はい」


「…、いや、そうじゃない。みておいて」


そういうと、アマンダさんはタタタッと丸く回りながら木を駆け上っていきました。


「そ、それ物理的に無理ですから。

体が地面と水平になってますから…」


「いいこと。この世に不変のものなどないのよ。

マルコのいう物理的って、絶対なの」


「えっ?」


「魔法は物理的にどうなのかしら」


「…」


「物理的な法則は絶対じゃなく、一つの現象の説明でしかないとしたらどうかしら。

例えば、世の中の法則は、自分を中心に回っていると考えるの。

水を出したいから水が出る。火が欲しいから火が出る。

自分の足元は常に大地である。

魔法ってそういうことなの」


「自分の足元は常に大地…」


「そう、色即是空は正しい教えよ」


「色即是空 空即是色…般若心経…」


「世の中に不変のものなどないのよ」


「や、やってみます…」


と、言われて変わるほど、根底に根付いた意識は簡単には変わらないのです。

高速移動を使って、5歩、6歩と行くと、ぐにゃりと景色が歪んで地面に落ちてしまいます。


「その歪むところが、マルコの高速移動の限界なのよ。

もっと、意識を足元に集中するの」


足元を見ながら、ここが大地だと言い聞かせます。

一周できるまでに一か月。

二周できるまでに二か月を費やしました。


「坊ちゃんの方は深刻よ。

町から逃げたときに、よほど怖い思いをしたのか、私が手を上げただけでビクッと怯えるわ。

これは、対策を考えないといけないわね」


「そうですか…

私も逃げるのに夢中で、そこまで気がまわりませんでした…」


「今のままじゃ、魔王どころかそのへんの魔物に殺されちゃうわよ。

やっぱ、スパルタじゃないと無理かな…」




私の方は、3か月でなんとかてっぺんまで行けるようになりました。


「この技は空脚からあしよ。

うまく使えば、囲まれた時でも逆転できるから、日ごろの訓練は怠らないこと」


「はい」


「坊ちゃんの方は、天狗様に訓練をお願いしたわ。

厳しい人だから、荒療治になるけど、やるしかないと思うわ」


「天狗…様ですか」


「あだ名よ。本物の天狗じゃないわ。

でも、いつも天狗のお面をつけてるの」


「はい」


こうして、私は陸まで送ってもらい、天狗様のもとへ向かうのでした。

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