第一章 夜逃げ

第4話、其のメイド…夜逃げする

とある夜半でした。


「マルコ、今すぐ逃げるんだ」


「敵襲ですか!」


「四方の教会から火の手があがっている。

じきにここへもやってくるだろう」


「わかりました」


遠くに半鐘の音が聞こえます。

私がルイージ様をおぶって抜け道に向かうと、リュウ師範が先に待っていました。


「お前たちだけは絶対に逃がす。

あとをついてこい」


「はい」


抜け道の出口に用意してあった乳母車はマジックバッグにしまいました。

通りに出ると、魔物が襲い掛かってきます。

一撃を回避すると、師範が蹴りで魔物を吹き飛ばします。

わたしもトンファーを取り出して備えます。


「こっちだ」


「はい」


立ちふさがる魔物を蹴りと掌底でなぎ倒し師範が道を作ってくれます。

どれだけ走ったでしょう、私たちは城壁までたどり着きました。

師範は隠し戸の閂を外して外に出ます。


「くう、外にもおったか。

いいかマルコ。この先をまっすぐ進むと海に出る。

そこに舟と仲間が待っておるからそれに乗って逃げろ」


「師範は…」


「お前たちのあとは追わせん」


「師範、その手は…」


師範の右手が私の胸を触っています…


「老体に鞭打つための回復薬じゃよ」


「…」


「いけ!」


「はい!」


私は走りました。

師範の言いつけ通り、後ろは振り返らずひたすらに前へと。

砂で足がもつれそうになりますが、それでも走り続けていると、小さな灯りが見えます。


何とか灯りまでたどり着くと、筋肉質の女性が待っていました。


「乗って!」


「でも師範が…」


「リュウさんの働きを無にするつもりかい」


私は言われた通り舟に乗り込みます。


「出すよ」


その女性は灯りを消してバシャバシャと舟を押し出し、舟を出発させます。

その時になって、やっと後ろを振り返りますが、闇の中で師範の姿など見えるはずもありません。


「師範…」


「坊ちゃんは?」


いわれて、私はおんぶ紐をほどき、確認します。

ルイージ様は途中で激しく泣いていましたが、泣きつかれたのでしょう、眠っていました。


「あたしはアマンダ。海獣使いのアマンダさ」


「マルコです。よろしくお願いします」


「さあ、乗り換えるよ」


「えっ?」


「追跡されないように、こっからはクジラの背に乗っていく。

舟は、イルカたちが近くの島にもっていって目くらましをしてくれるんだ」


「ク、クジラですか」


私には何も見えないが、アマンダさんは舟を降りて真っ暗な中に立っている。


「ほら手を貸して」


クジラの背に乗り、黒い布を被って目隠しし、私たちは連れられて行きます。


何処かへ…

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